「常念岳・蝶ヶ岳周回1日目/前常念を経て常念岳へ」 2014年10月11日(土)

国土地理院地形図
 : 25000分の1 「穂高岳」




 〜 はじめに 〜

 この山行に先立つ2週間前、北アルプス初登山の母をガイドして蝶ヶ岳へ登りました。
その時に北側によく見えていた常念岳へ登りたくなるのは自然の成り行きでした。
そして早くもこの体育の日の3連休に常念岳・蝶ヶ岳周回を実現させることが出来ました。
但し折悪しく接近中だった台風19号に備えて、希望より1日少ない1泊2日にて周回することとなります。

 今回は自分のことに全て集中出来るいつもの単独行での山行です。

 初登頂となる常念岳をまず先に目指すことを天気傾向により決定。よって反時計回りにての周回となります。









 1:30頃 三股・林道ゲート駐車場到着

 今回も空きスペースがまだまだ多く、楽々駐車することが出来た。
最初小雨が降っていた2週間前に比べてだいぶ暖かく感じる。今年最後の北ア山行なのに予想以上に冷え込みは弱かった。
やはり台風の影響で南からの暖かい空気が入ってきていたのだろうか。

 短くとも出発までに車中で仮眠をとっておく。








 行程概要 


 3:50 三股・林道ゲート(1,280m)出発

 常念岳山頂にての滞在時間確保、そして昼過ぎには常念小屋に到着したいことを考慮して2週間前よりやや早めに出発した。
前回と違って雨は降っていないうえに冷え込みは弱い。更に初めてのアプローチではないこともあって心丈夫に三股登山口へと向かう。
自分が気が付いていた限りでは、誰よりも早く出発したのではないかと思う。








 4:07 三股登山口(1,350m)到着

 用意していた登山届をここで提出。そして隣にあるトイレに立ち寄って、この後始まる長い登りに備えておく。




 4:18 三股登山口出発

 ここからいよいよ本格的な山道に入っていく。
出発後すぐ小さな沢を橋で渡ったところに前常念分岐がある。









       注意

 前常念岳方面へ行かれる方へ

 前常念岳まで急坂が続きます。
 このルートには水場がありません。

 毎年、疲労による遭難が発生しています。


 
体力に自信のない方はルート変更をして下さい。


 長野県安曇野警察署・北ア南部遭対協
 4:21 前常念分岐

 2週間前の蝶ヶ岳ピストンの際は気にしつつも見送った前常念分岐。
単独行の今回は思う存分自分のペースで挑戦出来る。常念岳まで7.1kmの道標をみて、よしっ!と気を引き締めて意気込む思い。
常念岳、常念乗越までの長い区間において急登の連続。常念岳までの標高差約1,500m。登り標準所要時間は6時間15分。
苦しい行程なのは重々承知のうえで取り掛かる。ここぞとばかりに日頃のボッカトレの成果を発揮したい。




 少しだけ進んだところで、前常念岳へ向かう登山者に向けての注意書きが目に入る。
自分の場合は常念岳までの地形の概念、急坂の標高差は把握したうえで臨んでいるので、一読だけして先へと進む。




 登り始めから急斜面と思しき周囲の状況。ヘッドライトの灯りを頼りにルートを見出して登っていく。
その際に自分より明らかにペースの速い男性3人パーティーに追いつかれたので道を譲る。
この後も常念岳に至るまでに少なくとも十数人の方々を見送ることとなる。
自分の登行ペースは軽装の方はもちろん、テン泊装備登山者の中でも遅いとみている。
このレポが安全な行動時間の目安の一助にもなれば良いと願っている。




 最初は急斜面のジグザグな登り。そして一旦は尾根に乗ったが、再び広い山腹へ入っていく模様。
早く明るくなればいいなと思う反面、六甲縦走で初めて体験したナイトウォークはすごくワクワクするという思いもある。




 4:50 迂回路分岐

 蝶ヶ岳へ向かう登山道が本沢での増水時に使用する迂回路への分岐を通過。
この辺りは等高線が大きく広がった平らな地形となっており、急坂が連続する今日の行程の中で束の間だが一息つけるところだ。
周囲は背の高い笹が覆っている鬱蒼とした森。2つ付けているクマ鈴の音色が心強く感じる状況だ。








 5:38 ジグザグの破線道上にて小休止

 地形図上でも印象的な長い長いジグザグの破線道。
暗闇の中で既に取付いていたジグザグを登っている間に周囲が薄明るくなってくる。

 登山道が僅かに広がったところを見つけて小休止。とはいってもストレッチをしたり行動食を摂ったりと忙しい。
この日の長野県の日の出時刻は5:50ではあるが、既に不要となったヘッドライトを忘れずに頭から外して収納しておく。








 6:04 山行中に時折見かける距離表示

 前常念分岐から早くも3km歩いていることになるが、ペースを抑えているのでどうも実感が沸かなかった。








延々と変わらない光景が続くジグザグ

 2,207m標高点から東へ伸びる緩い尾根に達するのを楽しみにして登っていくが、見えるのは森の木々のみ。
但し時折木々の隙間から三股周辺の景観が垣間見えるので、行程の進み具合はある程度把握することが出来る。

 登山道自体は蝶ヶ岳新道と同じとまではいえないものの、比較的整備されていると感じる。








じっくりゆっくりマイペースでジグザグを登っていく








ジグザグに朝日が射し込む

 時折ではあるが日に照らされる紅葉を楽しみながら登っていく。
このジグザグを登っている間に5度ほどザックを下ろして小休止をとったのではないだろうか。








 7:11 第一の長い急坂終わり(2,170m+)

 次第にジグザグの登りが楽になって上方に稜線の存在を感じると、待望の緩くて広い尾根である2,170m+辺りに乗り上げる。
周囲は城跡の削平地と表現してもよいくらいのスペースがある。
 このコースを下りで歩いた場合にはここであえて尾根を外すことになるが、道標もあるし尾根の東側は笹が生い茂っているので見落とす可能性は低いと思われる。

 三股から800mもの標高差にわたって続いた急坂をクリアしたところなので一息付いても良いのだが、
少し先の2,207m標高点まで緩い尾根が続くので時間節約の為にも先を急ぐことにした。




 2,207m標高点に達するまで地形図上では平らで歩きやすい光景を想像するが、木々の根を乗り越えたり、泥濘を避けたりしながらの登山道が続く。
ただ大まかには緩やかに高度を上げていくことになるのは間違いないので息は充分に整えられる。








 7:23 標準点櫓跡(2,207m標高点ピーク)到着

 緩やかな登りを経て明るい雰囲気の2,207m標高点ピークに到着。
ヤマケイアルペンガイドに記載のある“標準点櫓跡”と思われる構造物が地面にあることで、簡単に現在位置を特定出来る珍しい標高点だった。
そしてこの標高点ピークに達した時、今日の行程では初めて前常念岳が目に飛び込んでくる!
青空の下に前常念の岩稜が白く映え、すごく美しく感動的な光景だった。
但し遠目には美しい岩稜ではあるが、今日の行程においてある意味「核心部」であることをこの後に体感することになる。




 数人のグループを見送りながら、この標高点ピークで小休止をとっていく。




 7:32 標準点櫓跡出発

 標準点櫓跡を過ぎても、まだしばらくは森に覆われた緩い尾根が続く。
2,250m等高線を境に前常念岳(2,661m)まで約400mは急坂となりそうなので、
続けてペースを抑えめにして体力を温存しておきたいところ。

 時々ではあるが木々の隙間から、前常念や蝶ヶ岳付近の稜線などを垣間見ながら徐々に急坂に迫っていく。








急坂の始まり

 まだ森から抜けてはいないが、ここにきて一気に斜度が増してくる。
自分の脚は三股からの急坂の疲れを徐々に感じるようになってきていた。
時折追い抜いていかれる方々を見送りつつ、辛抱強く木々の間を登っていく。








 8:09 眼前に前常念が迫ってくる

 不意に前方が開けて深い森から抜けた。
途端に最初に眺めた時からは格段に近くなった前常念の雄姿が目に飛び込んでくる!
2週間前の蝶ヶ岳ピストンの際に遠望した常念岳まで手が届くところまで登ってきたことに感動するとともに元気付けられる。








 8:13 ハシゴを登ると途端に大展望の岩稜へ飛び出す!

 尾根上の行く手を遮る巨岩に掛けられているハシゴを登ると、一転して別世界のように周囲を広く見渡せるようになって思わず歓声を上げた!!
これまで登ってきた森に覆われた尾根を間近に、南方には鍋冠山。遠望はやや霞んでいるが、自分にはもう十二分の絶景だ。

 足元に注意してハシゴから岩場へと乗り移る。








大きな岩が積み重なった岩稜に踏み込む

 自分よりずっと大きな岩が積み重なった上をルートが通っている。
マーキングを見出すことによってルートを見極めつつ、足元に注意して岩稜の蝶ヶ岳側へとトラバースしていく。

 前方には明日に縦走することになる常念岳から蝶ヶ岳へ続く稜線を眺めることが出来る。
中でも2週間前に母と共に絶景を楽しませてくれた蝶ヶ岳から蝶槍までの稜線は格別の思いで眺めた。








ハイマツに覆われた広い尾根を直登

 最初の岩場は程なく終わって、森林限界を越えた尾根は広いハイマツ帯となる。
この辺りは比較的歩きやすい程好い登りだったが、遮るものなく日差しが照り付けてしかも無風。
8月お盆の雨天の北岳は別として、今日は予想外に今年最も暑く感じるアルプス山行となった。
水は予備も含めて2.5L。ポカリスエットも含めると3L携行していたので問題は無かったが、
自然に水の消費が増えていった。
同じ好天でも昨年の体育の日3連休で積雪を見たのがウソのようだった。








前常念へ続く厳しい岩稜帯

 前常念岳直下の標高差200m超にわたって続く、この岩稜帯の登りは予想外に体力を消耗する。
ルートは概ね尾根の西側に付けられているが、段差の大きなところ、砂が浮いて滑りやすいところ無数。
そして前述のようにとにかく暑かった。
この辺りで初めて下り中の方とすれ違ったが、自分の様子を見て「本当にお疲れさまです」とお声掛けいただいた。
励ましていただいて嬉しかったものの、見た目にも疲労の色が濃かったのだろうと思う。

 少しでも楽に安全に登れるよう、マーキングを拾いながら慎重にルートを辿っていく。
この岩稜帯は濡れていたり、視界不良の際は通過は控えるほうが無難だろうと思う。








 8:58 岩稜帯の一角にて小休止

 まだまだ続きそうな岩稜帯歩き。息を整えるために安定したところを見つけて小休止をとっていく。
常念岳から蝶ヶ岳へ続く稜線の向こうには、いつしか穂高連峰も見えている。
遅いペースでの我慢の登りではあっても、確実に標高を上げてきていることを実感出来る光景だった。








前常念へ向けてまだまだ岩稜帯の試練が続く

 左上方の稜線が次第に近づいてきているのが感じられるが、果てしなく続くように思えてしまう岩稜帯だった。
とにかく一つ一つの岩が大きいので、折り重なったところでは慎重な足運びとルート選定が大事と思った。

 そして今までほぼ尾根の西側を通っていたルートだったが、巨大な岩塔を巻くためか不意に東側へ移る。
大きな岩が延々と続くが脚を上げて、手を伸ばして乗り越えていく局面が続く。
トレッキングポールはダブルで使えたり、片手でまとめて持ったりと臨機応変に使う必要がある。








手強い試練となった岩稜帯

 いつまで続くかと思う岩稜帯歩きだったが、気付くと少し前まで歩いていた森に覆われた尾根が遥か下方に。
間合いなく立ち休憩をとりながら登っていたが、この直後には唐突に終わることとなる。








 9:25 前常念・石室到着

 不意に前方に岩が無くなって、前常念の石室前に飛び出した!
直前まで巨岩が折り重なっていて、直に見るまで石室到着は察知出来ない。

 絶え絶えになった息を整えつつ、もう近いと思われる前常念へ向けての最後の登りに備える。
この岩稜帯の登りは先月の穂高縦走における南岳新道と同様に本当にハードだった!
でも逆に下りのほうが危険度は増すと思うので、本当につらいが登りで歩くほうがベターと思う。




 石室は後方の岩場に半分埋もれるように建っている。
よく見ると窓は既に割れており、風雨はしのげるだろうけど外界と温度は同じになりそう。




 前常念岳は石室まで辿り着けば、もう僅かな登りで到達出来る。
この時、山頂直下にて下り中と思われる2人の登山者と出会う。
お二人の目線などの状況を見て、近くに居るライチョウに注目されていることにすぐに気付く。
自分もライチョウを見るのは白馬岳山頂以来でまだ2回目。
一応可能な限りズーム側にして撮影はしたものの、標準ズームレンズ(24-105mm)ではまだまだ写りは小さなものだった。

 ライチョウはしばらく目に届く範囲に居たが、そのうちにハイマツ帯の中に入っていって撮影会はお開きとなった。
お二人と挨拶を交わしてから、改めて前常念岳山頂へ。








 9:39 前常念岳山頂(2,661.9m)到着

 常念岳本体に遮られるのを除けば、ほぼ全方位大展望の広がる前常念岳山頂に到着!
ただ山頂とはいっても、尾根の末端と表現するほうが妥当かもしれないところだ。
何となくこの構成の山頂は既視感があるなと思ったら、宍粟50名山の一つの笛石山もここと同じで尾根の末端ともいえる山頂だった。

 それはともかく大展望の素晴らしい山頂であることに異論は全くない。
山頂の真ん中のよく目立つところに大きな一等三角点があって、感動の思いでタッチする。

 三股から延々と樹林帯の急坂、そして厳しい岩稜帯を経てきたこともあって、本当に達成感は抜群だった!
北側には表銀座縦走で歩いた山々が、そしてこれから歩いていく稜線の向こうには常念岳山頂が僅かに覗いている。

 最も厳しい登りはここで一段落するが、これまでの登りでもうだいぶ脚が疲れてきている。
ここはやや長めの休憩をとって、前常念岳での時間を過ごすとともに常念岳までの稜線歩きに備えておきたい。




 9:55 前常念岳山頂出発








相変わらず続く岩稜帯

 前常念岳を通過しても、なお稜線を覆い尽くす岩稜帯。
でもこれまでと大きく違うのは斜度が緩くなっていること。楽ではないがマーキングを参考にして安全なルートを見出して歩いていく。

 しかしこれまでの登りによる疲労が溜まってきていることはもう確実に自覚していた。
前常念岳から常念岳までの標準所要時間は登り下りとも1時間となっているが、それ以上の時間を要するだろう。
それにしても下りでも所要時間が変わらないという点が慎重さを要する岩稜帯歩きの実態を示していると感じる。








ほぼ全貌が明らかになる常念岳へ至る稜線

 最初の岩稜のひと登りを終えると、常念岳へ突き上げる稜線のほぼ全貌が見通せるようになる。
左右に緩やかにカーブを描きつつ、常念岳の北の肩へと続いていく。
常念山脈の主稜線歩きに関心が偏っていたが、この前常念岳からの稜線も素晴らしい山岳景観だ!
そして常念岳から北方にかなり下った先には、今日の宿泊地である常念乗越が大きく見えてくるようになる。
今回は常念岳登頂を最優先にした結果組んだ行程であった。でも前常念岳経由のこのルート自体が本当に素晴らしい。
きつい登りが続くルートではあるが、森林限界を過ぎた途端にそれを補って余りある景観を楽しめる。

 それはともかく、これから歩く稜線上にも巨岩が連なるところが点在しているようだが、とりあえずはひとまず落ち着いた稜線歩きを楽しめるようだ。








常念岳へ続く快適な稜線漫歩

 今日登ってきて本当に良かったと思える、自分にとって至福のひと時が続く。
正面には次第に近づいてくる常念岳山頂。蝶ヶ岳へ続く主稜線越しには引き続いて穂高連峰を見通せる。

 なおこの稜線歩きの間においても、相変わらず無風で暑く感じる状態は続いていた。
シャリバテと塩分不足を補うために適度に小休止を入れて行動食を口に入れていった。








10:18 常念乗越へのトラバース道(廃道)が始まっていた旧分岐(2,680m+)

 かつては常念岳を経ずに常念乗越へ向かうことが出来たサブルートが存在していたという。
現在は廃道になってはいるが、この分岐の道標や常念岳の東山腹に旧道の名残を見ることが出来る。

 なお道標に掲示された注意書きや旧道入口をロープで塞ぐなどして、誤って立ち入らないように処置はされている。








 
 注意

 右の道は、かつて常念小屋までのルートとして利用していましたが、現在手入れもなく、
土砂の崩壊も進み、とても危険ですので、廃道とし、通行止めにしてあります。
常念岳下の八合目分岐を経由して、小屋までおいで下さい。
次第に近づく常念岳山頂

 廃道の分岐を過ぎると稜線はやや斜度を増して、いよいよ前常念岳経由のこのルートも最後の登りに入る。
徐々に大きくなる常念岳山頂を正面に見ながら、山頂の北側へ回り込みつつ突き上げていく。
地形図を見ている限りではそれほど急な登りではないのだが、とにかく疲れている脚には最後の頑張りどころだった。
そして風が通らないことによる暑さもまだまだ続いていた。
10月も半ばになっているのに標高2,700m辺りでこれほど暑く感じることはあまりないだろうと思う。








東面の絶壁に目を奪われる常念岳、そしていきなりとなる槍の登場!

 なんとか休み休みで標高差100mくらいの登りをこなすと、いきなり槍が目に飛び込んでくる!
槍は今までに何度か見ているのに、予想外にいきなりの登場なので感動で胸が熱くなった。
三股からの苦しい行程を経てきたからこそ、尚更感動が大きくなるのだろうと思う。

 そして左上方には絶壁上の常念岳山頂が至近距離で迫ってくる。
もう既に山頂に居られる方々も見えている。
ということで前常念経由ルートもまもなくとなる終わりが見えてきた!
 常念山脈の主稜線に突き上げる前に、今歩いている稜線も平坦になるが最後は痩せた岩尾根となる。
マーキングを見落としてうっかり崖に突き当たってしまうこともあった。少し引き返してルートを改めて見出していく。








10:59 八合目分岐(2,810m+)

 これまでと打って変わって前方に大勢の登山者が行き交っているのが見えてくると、
遂に前常念経由ルートを無事踏破し八合目分岐に到着!

 分岐からは程近いはずの山頂は隠れている格好で見えていない。
でも残された標高差はもう僅か。分岐で息を整えた後で常念山脈の縦走路を最後の登りに掛かる。








11:18 常念岳山頂(2,857m)到着

 少し手前でふっと傾斜が緩むと、ようやく一段高くなっている常念岳山頂に到着!
2週間前の蝶ヶ岳ピストンにて常念岳を眺めて以来待ち焦がれた瞬間だ。
山頂は本当に遮るものがなく正しく全方位の大展望。標高差1,500m、所要7時間30分の苦労は十二分に報われる。
自分は「百名山」にはこだわっていないが、常念岳は本当にそのランクに見合う素晴らしい山であると迷わずに断言出来る。

 常念岳の山頂付近もこれまでの行程を象徴するかのように巨岩が積み重なっている。
残念ながら三角点は無いが、頂上部には方位板と祠が設置されている。
まずは順番を待って記念写真を撮り合う。
これ以上ないというほどの絶好の好天の下で登頂出来た喜びで溢れ、記念写真においても自然に良い表情がとれる。








登山者で大いに賑わう常念岳山頂。蝶ヶ岳からの眺めに比べると槍が幾分近いことを実感。








 
蝶ヶ岳へ続く常念山脈の主稜線を見通す

 明日の縦走への期待を大いに膨らませてくれる主稜線の景観だ。
今回は常念岳登頂を優先した結果であるが、明日は蝶ヶ岳を目指して南下していくこととなる。
常念岳より蝶ヶ岳のほうが幾分標高が低いので、逆向きに歩くよりも体力的にはやや楽になるのではと推察出来る。
でもアップダウンが多いことは変わりないので、楽に縦走出来る主稜線ではないだろう。







 
常念岳山頂にて

 蝶ヶ岳の時と同様に見飽きることのない槍・穂高の絶景を大いに満喫しながら、行動食のおやつを頬張る。

 自分が常念岳から最も目を惹かれたのは槍に重なるように見える、喜作新道が通っている尾根だった。
表銀座2泊目でテントを張ったヒュッテ西岳が槍の手前によく見える。
あれだけ険しく見える尾根の上にテントを張っていたのかと今更ながら驚く。
またテン場からは高く見えた西岳だったが、常念岳から見ると大きな標高差には見えない。
あの時既に槍は逆光でシルエットになる時間帯だったが、頑張って登っておけば良かったかなと思った。








初めて至近距離でライチョウを撮影

 一しきり撮影を終えて、ゆったりと槍・穂高を眺めていると、自分からほど近いところに再びライチョウが現れる!
しかも前述の前常念の時と違って4、5羽も居るではないか!?周囲の方々も気付かれて、静かに見守りつつ撮影を試みる。
自分も改めてカメラを構えて間合いを計っていると、偶然にも自分に近いほうに寄ってきてくれた。
105oでもかなり大きく捉えることが出来て感動する。夏毛から冬毛へと変わっていく途中のようで、お腹だけ白くなっているのが微笑ましい。

 彼らはしばらく思い思いに周囲を歩き回った後、次第に槍のほうへ向けて離れていった。
至近距離でしばらくの間ライチョウを観察することまで叶い、本当に思い出深い常念岳山頂での滞在となった。




 本当にいつまでも居たくなる常念岳山頂だった。時を経つのも忘れいつしか滞在時間は1時間20分にも及んだ。

常念小屋(常念乗越)まで下る所要時間、そしてテント設営までに要する時間を考えてそろそろ出発することにしよう。
テン場での滞在時間を楽しむことを考えると、思い切って腰を上げることが出来る。








12:43 常念岳山頂出発








今日の宿泊地、常念小屋(常念乗越)へ向けて下山開始

 常念岳を目指す大勢の方々とすれ違いつつ、先ほど登ってきたばかりの縦走路を下っていく。
すぐに目の前には八合目分岐が見えてくるが、常念乗越はかなり下りないと見えない。

 そして北方には横通岳を筆頭に常念山脈北部の山々が連なって見える。
いずれは未だに踏んでいない大天井岳を経て燕岳まで縦走してみたいものだ。








常念乗越が遥か眼下に見えてくる

 八合目分岐から台地状に緩くなったところをしばらく下っていくと、ようやく常念乗越が見えてくるがまだまだ標高差がある。
大勢の登山者が行き来する主稜線のルートなのでかなり整備はされているが、浮石やスリップしやすいところ、そしてマーキングに注意してルートを外さないように注意したい。

 自分にとって大事なことは、明日早朝の暗いうちにここを再び常念岳山頂まで登り返さなくてはいけないことだ。
何気に通過するだけではなく、しっかりと観察して明日の下見も行いながらという心持ちで下っていった。








ピラミダルな常念岳の景観。ちなみにここから山頂は見えていない。

 常念岳、常念乗越間の標高差約400m。ちょっとした低山に登るほどの運動量となる。
山腹は岩で覆いつくされているので、暗い中では特にルート誤りに注意が必要かと思う。
しっかりと首を振ることによってヘッドライトの灯りを広範囲に当て、マーキング確認を怠らないこと。








そしてようやく広い広い常念乗越へ下りつく

 テン場は小屋に近いほうは埋まりつつあるが、遠いほうはまだまだ空いている。








13:40 常念小屋(常念乗越 2,466m)到着

 葺き替え中なのか思いがけず屋根が板張りなのが印象的な常念小屋に到着。
絶景の槍・穂高のパノラマで感動した蝶ヶ岳ヒュッテからの景観ははもちろん最高だったが、常念小屋は周囲を山に囲まれてより山深い雰囲気。また一味違う絶景だ!

 早朝3:50に三股出発に始まった濃密な今日の行程を終えて、最高の達成感に包まれながら常念小屋へテン泊手続きに向かう。








常念小屋テント場 ※ この写真はテント設営後、14:50に撮影したものです。

 テン泊受付後、さっそくテント設営。小屋から遠いけどまだまだ空いていたテン場に向かう。
自分の場合は便利さよりも静けさを重視するので、仮に小屋から近いほうが空いていてもこちらを選択していただろう。
なおトイレは小屋に近いテン場に設置されている。

 テン場は段々畑状になっていて、ある程度整地されているが若干斜めになっているところが多い。
極力平らになるように慎重に場所を見極めて設営した。




 テント設営後、水の買い出しやバッジ購入などの用事を済ませるために一旦小屋へ向かう。
その後にテン場に戻って、持ってきていた炒りたてのポップコーンを頬張りつつ、山と高原地図を片手に槍から南岳や西岳などを見上げてゆったりと過ごすことにした。
まさにこの時間を確保するために出発時刻を決めたといっても過言ではないほど、自分にとってテン場滞在は大切で貴重な時間だ。
そしてこの日の昼間は夏山ではないかと感じるほど暖かくて防寒着は不要で居心地は最高だった。更に日が高いうちはテントの中に居られないほど気温が高かった。
この日に限っては地元のキャンプ場と変わらない気温だったのではないだろうか。違う点はこちらのほうがやはり虫が少ないことだけだろうか。








常念乗越(2,466m)散策

 好物のポップコーンで小腹を満たして落ち着いてから、腹ごなしのためにも常念乗越をぶらぶらと散策する。
これまであちこちでいろんな乗越を見てきたが、ここほど広くて開放感のあるところはそうないだろう。

 今日は午後遅くなっても雲は少なめで槍・穂高もバッチリ見えていた。








常念乗越から一ノ沢を眺める  一ノ沢を経て常念乗越までの標高差は1,160mだが、そこから山頂まであと400m近く登らなくてはいけない。 

 常念岳へのメインルートである一ノ沢を山と高原地図を片手にじっくりと眺める。
いずれ母を常念岳に立たせてあげたいが、今日自分が登ってきた前常念経由ルートはハード過ぎる。
定番の一ノ沢ルートを登ってくるほうが無難と思われるが、常念小屋から常念岳山頂までの登りは頑張りどころとなるだろう。

 なおここでは場所によっては自分の携帯が通じたので、家に常念乗越到着のメールを発信する。








午後遅くなってきて埋まりつつテン場

 日中暑いくらいだったが、次第に冷たい風が吹いてくる。
そろそろ夕食の支度に掛かるためにも、散策を切り上げてテントへ戻ることにしよう。








17:06 南岳辺りへ夕日が沈む

 今日の長野県の日の入り時刻は17:17だが、それより前に高い稜線の向こうに夕日が沈んでいった。
風を避けるためにテントの中で夕食を食べながら眺めた景観。
今日、仮に南岳小屋のテン場に居れば最高の夕景を見られただろう。








トワイライトにおける槍のシルエット

 寒い中三脚を立てて撮影。テント群の灯りもほっこりしていて好きだが、槍ヶ岳山荘の灯りが見えているのが印象的。
空は満天の星空で、南西諸島辺りで台風がウロウロしているのが信じられないくらい。
明日もまずまずの好天で蝶ヶ岳まで無難に縦走出来るだろうと期待してテントへ戻る。








19:00頃 就寝

 明日は常念岳山頂にてご来光(5:51)を迎えるため、4:30頃にテン場出発とした。それから逆算して2:15に起床することとした。

 前夜からの長距離運転、そして前常念・常念岳への登り疲れもあって爆睡は約束されたようなもの。
シュラフに潜り込むと早々に就寝。この夜は比較的気温が高く、シュラフカバーは無くてもよかったかもしれない。








「常念岳・蝶ヶ岳周回2日目・蝶ヶ岳へ縦走後、三股へ下山」へ続きます。





行程断面図です




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