「クリヤ谷再び」 2015年 7月26日(日) |
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国土地理院地形図 : 25000分の1 「笠ヶ岳」 3:45頃 笠ヶ岳山荘・キャンプ指定地(2,750m+)出発 前日初めて登ってきた笠新道から下山するという選択肢が頭の中にはあった。 杓子平は別天地の想像以上に素晴らしいところで、下りでももう一度あそこを歩いてみたくなったからだった。 しかしやはりピストンは避けたいということで、予定どおりに2度目となるクリヤ谷コースを下ることにした。 一度は下ったことがあるとはいえ、クリヤ谷コースは長大で1,900mもの標高差の厳しい道のり。 緊張感が欠けていたとは思わないが、それでも事故は起きるという経験をすることになる。 |
行程概要 ![]() |
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4:16 笠ヶ岳山頂(2,898m)到着 テン場から山頂までは登りやすく整備された登山道。 前日はテントを張った後は初登頂時に忘れていた小笠に立っただけで体力は温存していた。 笠の山頂はガスっていたからだったのだが。 それでもやはり前日に笠新道を登った疲れははっきり脚には感じていた。 |
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笠ヶ岳山頂(2,898m) | |
2年ぶり2回目の笠の山頂。やはりここは何度来ても素晴らしい山頂だ。 長い長い急登の笠新道を登った苦労は十分に報われた。 槍の北から登ってくるご来光を何とも言えない思いで眺める。 |
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4:55 笠ヶ岳山頂出発。いよいよクリヤ谷コース下降開始。 笠は本当に立ち去り難いが、クリヤ谷コースは下りでも7時間は掛かるのでとっとと出発しよう。 岩尾根を歩く区間は浮石が多いので注意が必要だ。 |
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クリヤ谷コースは笠の山頂からいきなり激下りの連続といって差し支えない。 ポールは長めに伸ばして、丁寧な足運びで脚力を無駄に使わないように下っていく。 振り返ると見る間に遥か高くに笠が離れていく。 |
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5:29 2,870m+付近 笠から南に伸びる大きな尾根をここで外すことになるが、マーキングや踏み跡は明瞭なのでまず問題はない。 遥か下方には雷鳥岩手前の四つ並び2,500m+ピークが待ち構えている。 南側の遠くには焼岳、乗鞍、御嶽と豪華な顔ぶれの山々が並ぶ。 |
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槍、穂高へ向かうように下っていく | |
シルエットではあるが、槍・穂高の稜線も見飽きることはない。 次に穂高へ行く時には奥穂から槍へ向かって縦走したいなとか考えていたと思う。 |
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クリヤ谷コースは崖沿いを通っていく 自分は高いところが好きではあるが、ここは相当に高度感のある景観だった。 岐阜県の登山に関する条例でも、穴毛谷は通年危険なところとして規定されているよう。 |
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6:14 眼前に4連発の2,500m+ピークを眺めつつ小休止をとる 雷鳥岩へ向けて長い山腹道が始まる手前で小休止をとった。 この区間は見た目以上に小刻みにアップダウンがあって、しかも大岩が連なるところも多い。 雷鳥岩へ向けては下り中ではあっても登りがちになるので、疲れた脚には厳しいところだ。 |
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大変な山腹道ではあるが意を決して進んでいく。雷鳥岩は見えてはいるがなかなか着かない。 |
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6:52 2,420m+コル 2,500m+ピーク4連発のちょうど中間点にある2,420m+コルに乗り上げる。 ここだけは東側に窓が開ける格好となるので、小休止にはとても良いところだ。 雷鳥岩までまだまだしんどい山腹道が続くので息を整えておく。 |
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やっと雷鳥岩が近づいてきた。 |
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7:21 雷鳥岩(2,460m+) | |
笠から2時間20分掛かって雷鳥岩に到着。 標準では1時間45分なので、撮影に時間を掛けているとはいってもやはり遅いかもしれない。 雷鳥岩は地形図にもその名が記載されてはいるが、どうみれば雷鳥に見えるのかはやはり分からない。 雷鳥岩から振り返る笠は本当に堂々とした姿で真に独立峰のよう。 槍・穂高から眺める笠も長い稜線が素晴らしいが、やはりここからの姿のほうが貫録があるように感じる。 |
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雷鳥岩を過ぎても大岩が連なる山腹道が続く 眼前のミニピークがクリヤノ頭で、クリヤ谷コースの厳しい下りはあそこからが本番といっても過言ではない。 雷鳥岩を要する2,500m+ピークとクリヤノ頭をつなぐコルの辺りは崖沿いの急坂で慎重に下っていく。 この時に登りの男性登山者2名と出会い暫し立ち話。そしてお別れした後歩き始めた途端に脚を置き誤った、と思う。 7:50頃 クリヤノ頭北側の2,390m+コル付近にて転倒して左膝外側を強打。 登山道から西山腹へ落ちかけたが、ちょうど足元にあった太い木が身を支えてくれていた。 一瞬何が起きたか分からなかった。一つ間違えばまず遭難していたと思う。悪くすれば登山道から滑落していたかもしれない。 登山道に座り込んで脚の具合を確認すると、脚は動かせるものの左膝内側にそこそこ強く鈍い痛みを感じる。 とりあえずしばらく歩いて様子を見てみようと判断。 事故現場の行く手の登山道はクリヤノ頭を巻き始めてしばらくは珍しく平坦な山腹道となるところだった。 |
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8:01 クリヤノ頭南面に出てくる | 8:23 応急処置と小休止後、クリヤ谷の長い下降を始める |
クリヤノ頭の南斜面は笹に覆われており、つい先ほど転倒したばかりなので本当に慎重に足を運ぶ。 しばらく歩いてみたが、やはり左膝を曲げて荷重すると痛みを感じる。 笹を抜けたところが小広い岩棚になっているので、ここで応急処置をすることにした。 ファーストエイドキットに入れていたボルタレンゲル(鎮痛消炎剤)を左膝回りに塗り込みまくって、それなりに痛みを紛らわせてくれた。 しかしそれでも相当に痛いことは変わりない。 これまで同様に丁寧に足を運びながら、ややいつもよりゆっくりめのペースを心掛けて下っていくことにした。 クリヤノ頭のすぐ南側直下(2,400m+)から登山口まで残る標高差はあと1,400m…。 この時ほど1,400mの標高差を果てしないものと感じたことはなかった。 クリヤ谷の源頭部は広い山腹をジグザグに下っていくという感じが延々と続く。 左膝周りにはやはり痛みがあるが、それでも歩いていると段々と痛みに慣れてきた感じがした。 前回の下りでバテた経験から、笠の山頂からゆっくりめに下ってきたことが良かったのか、 体力的にはまだまだ余裕があったし何とかいけそうだ。 |
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9:11 最終水場(2,070m) 日当たりの良い南斜面が続くので、この最終水場は本当にオアシスと思える。 10分程度小休止してリフレッシュした。ついでに左膝に水を掛けて冷やしておく。 |
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下るにつれて暑さとの闘いとなるクリヤ谷コース 前回は10月の体育の日3連休に下ったので、クリヤ谷コースの暑さを経験したのはこの時が初めてだった。 水は十分に余裕を持たせているので問題はないが、笠から下ってくると温度差だけでまいってしまいそうだ。 でも眼前の西穂辺りの眺めに元気付けられる。 |
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10:22 錫杖岳を見上げるようになる クリヤノ頭辺りからだと同じ高さだった錫杖岳。 それを遥か高く見上げるようになってくることで元気付けられる。 最終水場を過ぎると段々と傾斜も一旦は緩んでくるので、少しほっとさせられる。 この時は登山道を塞ぐ形で大きな倒木があって、まだ整理がされていない状況に出くわした。 倒木をやり過ごそうとしてルートミスを発生させたという事例も山小屋で聞いていた。 けっこう地面からの高さがあったが何とか平行棒の要領で倒木を越えた。 今日は色んなことを経験させてくれるなと、クリヤ谷コースの試練を噛みしめた。 |
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11:28 錫杖岳を見送りつつ、クリヤ谷下降を続ける 前に撮影した写真から1時間ほども飛んでいた。 もうあまりに長大なコースなので、撮影のタイミングも難しいし面倒と感じてしまうようになっていた。 やはり痛みがあることで疲れ方もいつもと違うようだった。 前回には紅葉に彩られていた錫杖岳だったが、今回は緑が美しかった。 |
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11:50 穴滝上の渡渉点(1,250m+) 長々と下ってきて、ようやくこの渡渉点に辿り着くと心底ほっとする。 日差しが遮られ、水量豊富の涼しい川原で20分弱の長めの休憩をとる。 この先の所要時間は残り少ないが、疲れた脚には渡渉点から登山口まででも長く感じることを既に経験している。 負傷してから4時間下ってきたが、脚の痛みは改善はされていないが、幸いにもひどくはならなかった。 ここでも左膝を冷やしておいて残る下りに備える。 |
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登山口まで深い樹林帯が続く 途中からは車の音が聞こえてきたりして、待望の下界までもう少し! |
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12:47 クリヤ谷コース登山口・槍見温泉(980m+)到着 ケガをしてから約5時間。標高差1,400mを耐えて、ようやくクリヤ谷コースを下りきった…。 やはり今回は長かった。笠新道の登りも辛かったけど、今日の下りはいろんな意味でそれ以上の大変さだった。 笠から7時間52分。前回は6時間58分で下っているので、やはりアクシデントやゆっくりめに歩いたことを数字が現していた。 それでもいろいろあったにしては1時間未満の遅れに収まっているのが意外とも思えた。 |
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12:53 中尾高原口バス停(970m+) 前回は深山荘前の駐車場まで歩いたが、今日はちょうど良いタイミングでバスが来てくれそうだったので有難く利用した。 13:07 ほぼ定刻どおりに通り掛かった新穂高温泉行きバスに乗車 |
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13:16 新穂高ロープウェイバス停・新穂高温泉駅(1,100m+)到着 今回も深山荘前の駐車場には入れなかったので、鍋平まで戻らなくてはならない。 バスから降りた後はロープウェイに乗換える。 第1ロープウェイのみなので、大人400円(荷物券100円を足して合計500円) |
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第1ロープウェイからは笠の稜線をただただ見上げていた | |
ロープウェイはそれほどの混み具合ではなかったものの、乗り合わせた周囲の観光客の方々は臭っただろう。ただ恐縮だった。 新穂高ロープウェイはまだ第1ロープウェイしか乗ったことがないが、そのうち西穂へ登ることもあるだろう。 鍋平の駐車場までは舗装路の下り。脚を庇いつつゆっくり戻っていく。 車に戻った後、今回は近くのひがくの湯に立ち寄って2日間の汗を流した。 露天風呂は下ってきたばかりのクリヤ谷を正面に見上げられる素晴らしい借景だった。 〜 終わりに 〜 自分の登山歴史上で最も大きなケガをした山行となりましたが、 このクリヤ谷コースの下りは2回目だったということもあって山行記録にまとめる機会を逸していました。 この日からまもなく1年となり、これから新たな夏山シーズンが始まるというタイミングで形にしておかなければならないと考えました。 山行直後の診断では骨に異常はなく、鎮痛剤?を直接膝に注射することで痛みはかなり改善。 但しその後約2ヶ月にわたり痛みは完全には収まらなかったので、MRIで調べてもらったら「左膝内側靭帯の軽度の損傷」ということでした。 都合数度ヒアルロン酸注射もしてもらうなどして、10月頃には完治していました。 結果的には日にち薬だったということで、痛みが引くまでの期間も脚は自由に動かせていました。 8月には裏銀座縦走、シルバーウィークの奇跡の5連休には新穂高から黒部ダムまで歩きましたが、まあ脚の具合に影響がなくて何よりだったと思います。 今回の経験を経て感じたことは、やはり登山は下りが危険。 しかも何でもないところが要注意。危険マークのところは集中していますが、ふと気を抜きそうなところがかえって危ないと感じました。 単独行においては本当に細心の注意をもって歩かなければという思いを新たにしました。 この山行記録は自分への戒めとしてまとめましたが、多くの方へ警鐘として役立ててもらえれば幸いです。 |
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行程断面図です![]() |