「雲ノ平/読売新道縦走3日目・雲ノ平から奥黒部ヒュッテ」 2015年 9月21日(月)

 
国土地理院地形図
 : 25000分の1 「三俣蓮華岳」、「薬師岳」、「烏帽子岳」、「黒部湖」




 20日(日) 
23:30 起床

 雲ノ平での夜は珍しく寝つきが悪かった。
夕方にドリップコーヒーを飲んだのが原因か、もしくは読売新道縦走を前にして興奮していたのか。
超長大な行程を前にやや寝不足気味となってしまった。




 21日(月)
 1:35 雲ノ平キャンプ場(2,570m+)出発

 自分のペースでもって明るいうちに奥黒部ヒュッテに辿り着くため超早発する。
この時点では降ってくるようなきれいな星空だった。

 真っ暗な雲ノ平を歩いている時、「黒部の山賊」で読んだようにオーイ、オーイとあらぬ方角から声が聞こえてはこないかと
内心ちょっと期待してしまったが、残念ながら?静かな深夜だった。

 祖父岳分岐までは昨日歩いた登山道を戻っていく。
分岐手前まで登ってきたところで、下方よりヘッドライトの灯りが3つほど追ってくるのに気付く。








 行程概要 



 読売新道はエスケープルート無し。突入前の天候判断が重要です!

 水晶岳〜赤牛岳の稜線は全体的にゆったりした地形で視界不良時は特に道迷い注意。

 赤牛岳からの下り始めは足場の悪い激下りで滑落と落石に注意。

 4/8以下は深い樹林帯。木の根、ドロで非常に滑りやすい。また不明瞭な箇所があるのでマーキング要確認。


 
 2:32 祖父岳分岐(2,680m+)

 祖父岳分岐からワリモ北分岐までは未踏区間に入るため、ルートファインディングを慎重に行う。
しかし祖父岳北斜面を登っている間にルートを逸れたようで、やたら大きな岩や浮石が多くて難渋する。
それでも山頂手前で正規ルートに戻ることが出来た。岩だらけの地面だがしっかりとマーキングを追うことが重要。




 3:07 祖父岳山頂(2,825m)到着

 真っ暗ながら初めて辿り着いた祖父岳山頂はだだっ広く、ケルンが林立してやや不気味な雰囲気。
山頂に出た途端に強風となり、ケルンに身を寄せて10分弱の小休止をとる。

 祖父岳山頂でルートは大きく東に向きを変えるので、慎重にルートファインディングをして出発する。
ここからは小刻みにアップダウンのある稜線を辿るが、ハイマツ帯が途切れたところでルートを見失いやすい。
慎重に周囲の状況を観察してルートの続きを探すこと二、三度。一度は誤った踏み跡へ入ってしまい引き返す羽目に。
なお、普通に昼間に歩けば何ら難しく感じるところではないように思う。
前日に三俣から雲ノ平へ歩いた際に、岩苔乗越を経由していればもう少しスムーズに歩けたかもしれない。

 岩苔乗越の手前で2人組の男性登山者に追い抜かれる。自分よりも遥かに早いペースのお二人で体力の差を痛感。








 4:05 岩苔乗越(2,730m+)

 ルートファインディングしながらも何とか無事に辿り着いた岩苔乗越。
この時点でも既に色んな意味で疲れており、息を整えるためにも小休止をとっていく。

 東側には鷲羽からワリモにかけての稜線がシルエットでよく見えており、
その稜線上でもいくつかのヘッドライトの灯りが見える。
このタイミングで北へ向かうといえば、おそらくかなりの確率で読売新道を目指している登山者ではないかと推察。








 4:24 ワリモ北分岐(2,800m+)

 岩苔乗越から標高差80mくらいの急坂を喘いで登ると、ようやく裏銀座縦走で通過したワリモ北分岐に到着!
ここから水晶小屋までは既に歩いた区間であり、この見覚えのある指導標を見た時には張り詰めていた緊張感が一気に緩んだ。
とはいえ山と高原地図によると、ここまでの標準所要時間は1時間40分。対して自分のコースタイムは3時間弱。
自分が掛かり過ぎなのか山と高原地図の所要時間が問題ありなのか。これでは水晶岳で日の出を迎えるのは難しそうだ。

 分岐からしばらくは急な山腹のトラバース。すぐに広い平坦地が広がるワリモ乗越へ出るがここもルートミスに注意。
この頃より薄明るくなってくるが、風もますます強くて非常に寒くなってくる。一旦脱いだダウンを着たりとレイヤリング調節が忙しかった。
そして薄明るくなってきたことで、空はやや雲が多いことに気付く。今日は遂に勝負の一日なのに天候が悪化しないことを祈るばかりだった。








 
 
 5:18 水晶小屋分岐(2,900m+)

 ワリモ乗越から短いけどかなりの急坂をどうにか登り終えて、裏銀座縦走で見知った水晶小屋分岐に到着。
たいへん強風のうえに寒くて、行動を止めるとすぐに冷えてくる。
かつて建築中の小屋が飛ばされたこともあるという水晶小屋の立地条件の厳しさの一端を体感した思い。

 ところで分岐周辺ではテントが数張り設営中で驚いた!
水晶小屋はテン場は無いのだが、後で聞いた話では特別な措置として設営を許可されたよう。
基本的にはテン場をつなぐには、三俣か雲ノ平を出発地としなければならない。

 小休止後にさっそく裏銀座縦走路を外れていよいよ水晶岳へ向かう稜線に乗る。
そのまま水晶岳へ向かいたいところだが、その前に水晶小屋すぐ裏手の高台(赤岳)に立ち寄っていく。








裏銀座を離れて水晶・赤牛の稜線へ!  
 
赤岳山頂(2,910m+)  赤岳山頂より南側の景観。稜線の東側では強風はある程度遮られるが、基本的にはキャンプ指定地ではない。  

 水晶小屋のすぐ裏手に位置しながらも、裏銀座縦走の際には僅かの登りも惜しんで通過したミニピークだ。
山頂には小さな仏像も安置され、今日の行程の無事完遂をそっと祈っておいた。
水晶小屋越し東側には野口五郎を中心に裏銀座の稜線が横たわる!
絶好の夏の好天の下で歩いた裏銀座の感動を呼び起こしてくれる。

 水晶岳でご来光を迎えるのは時間的に無理だが、野口五郎辺りからまもなく日が昇ってきそうだ。
やや雲が多いのが気懸りではあるが・・。

 一方、南側はどんどん雲が湧いてきているのが目に入る。
今のところ西鎌尾根や双六を越えてはいないが、今日は昨日のような快晴の空模様とはいかないようだ。








 
 
 5:25 赤岳(水晶小屋分岐)出発  

 雲ノ平キャンプ場を出発して既に4時間。もうだいぶ疲れているが、ようやくここからが今日の行程の本番!
いよいよ北の水晶岳へ向けて歩き始めるが、稜線上はかなりの強風が吹き付ける。
今のところはダウンまで着ていて丁度良い体感温度だ。
赤岳からすぐ北の広い稜線上にも数張りのテントが設営中だった。
この強風に煽られながら、またこの寒さの中でよく眠れたのだろうか心配になってしまう。

 なお水晶岳までの距離はさほどではなく、既に山頂に人が立っているのも肉眼では見えている。
水晶岳は水晶小屋からピストンすることでもお手軽に山頂に立つことが出来る。








 
 
 5:38 モルゲンロートの水晶岳を眼前に感動する!

 稜線上を歩き始めてまもなく日の出となり、水晶岳が見る間に真っ赤に染まった!
この日はやや湿った空気が入りやすくなっていたようだが、後から振り返ったら連休中では最も見事な朝焼けが見られたようだ。
水晶岳山頂でご来光をという狙いが外れたのがかえって良かったのではと思えた絶景だった。

 空模様はやや雲は多いものの、青空も見えていたのでまだ期待出来ると感じた。








 
 
ルートは主に稜線上の雲ノ平側に通っている  

 まだ日の当たらない雲ノ平側に付けられた登山道を辿っていく。
見下ろすとかなりの高度感があり、またハシゴまで設けられている。
近くに見えている水晶岳だが、充分に息が上がった状態でようやく山頂へ辿り着く。








 
 
 6:12 水晶岳山頂(2,986m)到着

 雲ノ平から歩き始めて4時間40分余り掛かってようやく水晶岳山頂に到着!!
出発地の雲ノ平は水晶岳から見れば遥か眼下に広がっている。
標高差だけではなく、祖父岳を越えてきたことで距離も歩き応え抜群。
今日の行程はまだまだ前半ではあるが、十二分に達成感を得られる山頂からの絶景だった。

 水晶岳山頂はたいへん狭くて足場も良くない。
周囲の方と適宜場所を入れ替わりつつ、山頂での短い時間を過ごしていきたい。








 
 
これまで歩いてきた山頂南側の稜線を達成感と共に振り返る。







この先、エスケープルートはないので天候判断が非常に重要となる。







 
 
 6:21 水晶岳・主峰出発

 なお水晶岳は正確に言えば2つのピークを持つ双耳峰となっていて、現在立っている2,986m峰が主峰。
すぐ北に見えている北峰は僅かに8m低いものの三角点が設置されている。

 時間さえ許せばもちろん長く水晶岳・主峰に居たいが、今日の行程はまだまだまだまだ先が長いので出発する。
赤牛岳へ向かう登山道は道なりに進むと北峰は素通りしてしまうようで、適当なところから北峰へと登っていく。








水晶岳へはまたいずれゆっくりと訪れたい。  
 
 6:28 水晶岳・北峰(2,977.9m)到着  三等三角点「水晶山」。裏六甲にも同名の山があるが、そちらには三角点は無い。  

 主峰からの見た目よりもあっさりと北峰に到着!ハイマツに隠れるように三角点が設置されていた。
北峰も同様に全方位に絶景が広がっていて、特にこれから縦走していくことになる稜線と赤牛岳の山岳風景に魅了される。
そして更に赤牛より北東側の遥か下方には既に黒部湖も見えており、今日の行程の距離も同時に体感出来てしまう。

 稜線を辿る登山道沿いにはこの北峰を示す指導標が無く、その影響かこの北峰にも立ち寄られる方は少ないようだ。




 6:33 水晶岳・北峰出発

 先が長いこともあるが、じっとしていると寒いので出発する。
北峰からメインルートへは砂混じりの激下りであって、殆ど滑り落ちるように下っていく。

 ルートは引き続いて岩苔小谷側を進んでいく。
水晶岳・北峰からしばらくは二重山稜で少しややこしい地形なのでマーキングを慎重に追う必要があるが、
この日に限って言えば常に先行者が視界に入るのでルートファインディングの手間が省けてしまった。

 水晶岳を過ぎても多くの方が北上を継続し、読売新道へ突入されるよう。
ここを歩くために好天見込みの連休という願ってもないチャンスを活かそうと考えられた方が自分を含めて相当数居たように見える。








 
 
雲ノ平辺りに写る影水晶

 立ち休憩しながら雲ノ平方面を眺めて撮影した。
ちょうど朝日が射し込んだために、雲ノ平に写る影水晶を観ることが出来た。
歩いてみて分かったけど、雲ノ平から水晶小屋は相当遠いし道のりも厳しい。特に夜中。
雲ノ平発と同じく楽ではないが、三俣から水晶小屋を目指すほうがルートもはっきりしているし堅実なプランかもしれない。








 
 
初めて稜線を乗越して東沢側に出る

 ずっと岩苔小谷側を辿ってきたが、初めて東沢側に移った。
朝日がたっぷりと降り注いで、一気に体感温度も上がった。日差しの有難さがよく分かる。

 次の目標地点は水晶岳から標準所要時間40分の温泉沢ノ頭としているが、その手前にある平らな2,904mピークが良い目印となる。








 
 
 7:33 温泉沢ノ頭(2,870m+)到着

 2,904mピークを過ぎるとまもなく指導標の立つ温泉沢ノ頭に到着。
分岐上からは少し近くなった赤牛が・・雲が被って見えていない。
それでも青空が広がってきたので、赤牛が姿を見せてくれることを期待しながら北上を続けられそうだ。

 ところで一応温泉沢ノ“頭”と名が付いているが、あまりピークらしいところではなくて尾根の肩といったほうが適切かもしれない。
ここからは3時間弱の道のりで高天原へ向かうことも出来る。

 赤牛まで続く稜線歩きもまだ始まったばかりだが、抜きつ抜かれつで半分パートナー?となっていただけそうな登山者の方々が定まってきた。
ここでも先に出発しますと声を掛けて歩き始める。ここから2,720m+コルまでは下り基調で例外的に楽な区間といえそうだ。








 
 
温泉沢ノ頭から2,810m+ピークにかけては快適な稜線歩きとなる  雲が消えて近くなってきた赤牛岳が現れた!   

 このまま時が止まってしまえばいいのにと思うくらい、たいへん気持ち良く憧れだった稜線を北上していく。
これでは赤牛に辿り着くのが惜しいと感じるくらいだ。
 目指す赤牛や西隣の薬師にはしつこく雲が掛かり続けているが、この日は良くなっていく天気予報だったので、いつしか消えるだろうとみていた。
そして2,810m+ピーク付近に差し掛かった頃、遂に稜線上から雲が消えて赤牛の赤茶けた山肌が色鮮やかに現れる!
赤牛山頂に辿り着く光景を思い描きながら、水晶小屋から始まった稜線歩きも中盤に差し掛かってきた。








 
 
2,720m+コルへ向けては一転して激下りとなる。  小休止の適地、2,720m+コル  

 赤牛はほぼ同じ高さで見えているが、ここで一旦2,720m+コルへ向けて大きく標高を下げることになる。
 そしてコルの手前で再び東沢側に出て、コルに出ると再び稜線上へ回帰する。
この辺りで逆向きに南下中の男性2人組の方々と出会ったのを筆頭にして、この後の行程において数人の方とすれ違う。
この日出会った方々の人数を考えると、相当な数の登山者の方が長大な読売新道を登りで歩かれていることが分かる。




 8:29 2,720m+コル

 広くて落ち着ける2,720m+コルに辿り着く。ここは水晶・赤牛間の最低コルともなっており、ここから赤牛までは登り基調となる。
いつしか風も無くなり、日差しも強いのでだいぶ暑くなってきた。
朝まではめちゃくちゃ寒かったのだが、秋のアルプスは一日の気温差が本当に大きいと改めて感じる。








 
 
更に広大な2,720m+コルを通過して登り返しにかかる やや東寄りにトラバースしながら高度を稼いでいく。   

 小さな2,742m標高点ピークは西側斜面を巻いて、南北に大きく広がった2つめの2,720m+コルに乗り上げる。
特徴の無いかなり広いコルであり、視界不良時に通過する際には充分な注意が必要そうだ。

 眼前には2,820m+ピークが立ちはだかり、いよいよ赤牛へ向けて最初の登り返しが始まる。
コルからの標高差は約100mほどで、しかも途中までは等高線も緩やか。
ここからはそれほど疲れる局面には見えないが・・。

 地形図の破線道どおりに稜線よりやや東寄りを登っていく。
東沢を挟んだ向こうには裏銀座の稜線がばっちり見える。遠目には三ツ岳への登りは大したことないように見えるが・・。
また烏帽子岳は横から見るとずんぐりしていて、あの槍以上の鋭鋒ぶりは限定されたアングルでの姿だったことが分かる。
但し実際の烏帽子もそのような形なので、本当の意味で的を得た山名だと納得した。



 登りの途中からは様相が一変。
ここも人の体以上の大きな岩がゴロゴロしている骨が折れる難所だった。
後続の登山者の邪魔にもなるし、何より自分撮りは難しいところなので安全に出来るだけ速やかに通過することに専念する。
なお、山と高原地図にも “花崗岩の岩ゴロゴロ 浮石注意” と書かれている。








 
 
 9:12 2,820m+ピーク付近

 大汗を掻いてゴーロ帯を越え、ようやく最初の登り返しを終わらせた。
振り返ってみると水晶岳もかなり遠くなり、縦走の醍醐味を存分に味わうことが出来る。
但し南側からかなり雲が多くなってきており、何とか赤牛へ辿り着くまでは視界を得られることを祈るばかりだった。








 
 
2,820m+ピーク付近。東側を巻いて北上する  月の砂漠のような2,760m+コル。2,803mピークは西側を巻く。  

 南北に細長い2,820m+ピークは地形図どおりに東側を巻く。
憧れの赤牛も近くなり、既に地面も本当に赤っぽくなってきて気分が盛り上がる。
しかし赤牛岳東斜面の遥か奥には黒部湖も同時に見えてきて、
今日の長大な行程においては赤牛に着いてからが本番であると改めて気合も入れなければならなかった。




 9:28 2,760m+コル

 2,760m+コルまではほぼ水平道のまま降り立つことが出来る。
赤牛への接近に興奮して、ゴーロ帯通過後に取り忘れていた小休止を入れていく。
このコルも荒涼たる景観で、水晶・赤牛の稜線の特徴をよく表している。




 赤牛の前に立ちはだかる最後のミニピーク2,803mは西側斜面を巻きながら登っていく。
等高線からすると僅か20〜30mの登りなのに、滑りやすい急な砂地になっており元々疲れた状態でますます脚が重くなる。








 
 
2,770m+コルに西側から乗り上げる  水晶岳、そして雲ノ平は遥か彼方。昨日は快晴だったが・・。   

 何とか短い急登を終えて2,770m+コルにて稜線へ復帰。すると遂に遮るものなく赤牛が眼前に見えてくる!
雲間から日差しが照り付けると、赤茶けた山肌がユニークな光景を見せてくれる。

 赤牛までの残る標高差は約100m。続々と山頂へ向かう登山者を見送りつつ、稜線上で最後の登りを前に息を整えておく。




 コルからしばらくは稜線より少し西側を登っていく。
そしてゴーロ帯を抜けると、まるで火星のように赤茶けた砂地の稜線となる。
肌理の粗い砂地を歩く小気味良い感触を楽しみつつ、ゆっくりと赤牛までの最後の登りをこなしていく。

 いつしかルートは西側斜面を辿るようになって山頂は直前まで見えないが、先着の登山者の方々の話し声で遂に登りが終わることを知る。








 
 
10:12 赤牛岳山頂(2,864.4m)到着  厳しい環境を物語るような赤牛岳山頂の山名標  

 西側斜面からいきなり南北に長い山頂のど真ん中に乗り上げた!
雲ノ平を出発してから8時間40分余・・。長い道のりの末に辿り着いただけに喜びもひとしお。
周囲の登山者の方々の撮影が一段落するのを待ってから、感動の思いで山名標と三角点の横に立つ。

 赤牛山頂の周囲はやや雲が被ってしまっているが、時折は強い日差しもあるうえにほぼ全方位の展望も得られた。
ここは北アルプス最深部の中でも最奥の山で、滅多に立てる山頂ではない。出来るだけ長い時間を過ごしていきたい。
 なお今日の残る行程は奥黒部ヒュッテまでの下り5時間。
超早発のおかげで赤牛山頂でのんびりしていても明るいうちに行動を終えられるだろう。








 
 
雲ノ平より始まった長い道のりを振り返る  ハイマツの影に控えめに立つ「赤手岳」三角点。点名が引っかかるが、手と牛を間違えたのだろうか。   

 南側から絶えず雲が流れてくるが、どうにか今日の行程の範囲内は見通すことが出来た。
改めて今日の行程の長大さを実感することが出来る絶景だった・・。
真っ暗なうちに通過した祖父岳は遥か遠くに、水晶岳は別名「黒岳」のとおりに黒っぽく見えている。
また、温泉沢ノ頭は高天原方向に長い尾根を派生させていることがよく分かる。
但し高天原へのルートの大半は尾根ではなくて北側の温泉沢を辿るようだ。








 
 
今日の風向きの影響か薬師の稜線に掛かる雲は終始取れず。早くこちらへも登って来なさいということだろうか。  この後、今日の行程において、ある意味で本当のハイライト?である読売新道の下りが始まる  

 この時、赤牛岳山頂に居合わせた方々はほぼ全てが読売新道を下ることになるが、
老若男女、テン泊装備から山小屋泊の方まで色々だった。
何人かの方とお話ししてからほぼ同じタイミングで出発することとなるが、この後の長い下りでは抜きつ抜かれつ状態となる。
前後の顔ぶれをお互い自然にチェックすることとなるので、長い行程でも安全登山に良い作用をもたらしてくれたと感じる。

 なお読売新道は、その名のとおりに読売新聞社が1961年に北陸支社開設を記念して敷設した登山道。
完成までに5年の年月を要したという。標高差約1,300mの急登、そして長距離の厳しい登山道だ。
自分は巨人ファンではないものの、この挑戦し応えのある登山道を敷設してくれた読売新聞社に感謝の気持ちを持って歩きたい。




10:50 赤牛岳山頂出発

 いつの日か再び赤牛岳に立つことを期しつつ、名残惜しいけど出発する。
山頂からは北西方面に大きな間違い尾根が派生していることを意識しておいたが、下り始めにはロープや指導標で丁寧な誘導がされている。








 
 
足元注意のガレた痩せ尾根の激下りで始まる読売新道

 遂に読売新道の試練が始まる。
山頂からの下り始めからいきなり激下りだが、すぐに尾根自体が痩せてきて高度感たっぷりのルートとなる。
段差の大きい滑りやすい砂交じりの岩場が続き、下り始めからいきなり最大限の集中が必要となる。

 この場において触れておきたいことなのだが、自分は今夏のアルプス山行において実際に転倒、滑落しかけた経験をした。
(この山行記録を纏めている時点では未完成の笠ヶ岳からのクリヤ谷コースにおける下りにて経験。
転倒時に打ち身か捻った感のあった左膝にボルタレンゲルを塗り込んで、痛みを我慢しつつクリヤ谷コースの残り1,400mの標高差を下る。
左膝内側が数週間痛かった。病院で診察の結果、左膝内側靭帯の軽度の損傷。現在既に自然治癒済で後遺症無し。)
左膝の痛みが消えないうちに8月に裏銀座を踏破したのだが、歩行や日常生活には負傷当初より全く問題はなかった。

 正確にいえば10年前のNZにおいて、日が当たらず雪が張り付いた山腹道で滑落しかけた経験もあった。
半ば忘れていたが今回2度目ということで、改めて特に下りにおいてはいつ事故が発生しても不思議ではないという認識を強く持った。
まして自分は単独行を基本としているので、より慎重さが必要といえる。撮影する時も安全の確保を最優先したい。








 
 
最大限に集中して下った赤牛岳山頂直下の痩せ尾根

 最初の激下りが一段落して安定した稜線上から撮影。
振り返ると赤牛岳にガスが掛かり始めていた。視界が無くなるまで僅かの差だったことが分かる。
今日の行程において、自分が赤牛岳山頂を見たのはこの時が最後となった。




 この後も延々とタフな下りが続くが、やはり滑落の危険性を感じる高度感においては山頂直下が一番だった。








 
 
11:30 指導標 7/8 無残に損傷した7/8指導標。落石が当たったかのように見受けられる。  

 読売新道では7/8〜1/8まで、ルートを8分割する指導標が設置されており、長い下りにおいて重要な指標となる。
これまでの経験においては、下りではとにかく焦らないことと、一定間隔を置きながら計画的に小休止をとることが重要と認識している。
この指導標の間隔を参考にしながら、小休止をとることにしたい。
下ることに集中しがちになるが、少し立ち止まるだけでも気分が変わる。
この7/8地点でもそうだが、とにかく読売新道は快適に歩ける登山道とは言い難いので、常に余力を残した状態で歩行出来ることが望ましい。








 
 
時折現れる岩塔を避けつつも、概ね稜線上を辿る

 岩が積み重なって小刻みに繰り返されるアップダウン、スリップしやすいザレた急坂が続いた後、
尾根は次第に傾斜も地面も落ち着いてきて、ようやく比較的快適に歩けるようになる。
日が射さなくなったこともあって、涼しくて体感的には気持ち良く歩けた。

 但し前方にはガスが広がってきて、雄大なはずの景観は遮られる。








 
 
12:04 指導標 6/8

 やはり歩きやすい尾根がしばらく続いたおかげで、比較的早く6/8に到達。
地形図では2,578m標高点辺りに位置する。

 一時期は濃いガスだったが標高を下げたおかげか、視界が広がってきて周囲の景観が見渡せるようになる。
黒部川・上の廊下と東沢に挟まれた山深いところに居ることを実感させてくれる。








 
 
大きな岩が点在するものの比較的下りやすい区間が続く








   
   
再びガスが切れると、前方の谷奥には少しだけ近くなった黒部湖が見えた

 水晶・赤牛の稜線に近い状態の幅広の尾根となる。
ややルートが不明瞭となるきらいがあったので、慎重にルートファインディングしながら下った。
前方には今回の行程の終盤でもある黒部湖が見えているが、山旅の終着点である黒部ダムの構成物まではまだ分からない。

 幅広で緩やかな尾根を気持ち良く辿っていると、いきなり短い急坂となって森林に突入する。








   
   
12:25 いよいよ深い森に突入するのだろうか

 いきなり視界は無くなったが、その代わりに見頃の紅葉が出迎えてくれた。
地面は縦横に組んだ木で舗装され、ここはまだまだ歩きやすいところといえる。








   
 
12:28 指導標 5/8

 一旦は無くなった視界がすぐに再び現れ5/8に到着する。
眼前には黒部湖に加えて烏帽子がかなり近い。
東側の稜線からもう一度赤牛とこの尾根を眺めてみたいという思いになる。

 体感的にはもう充分に下ったように疲れているが、それでもまだまだ先は長い。
5/8地点は少しだけ登山道が広がっており、ここで7/8以来となるザックを下ろしての小休止をとる。




 この5/8を過ぎた辺りからは、急登に加えて滑りやすいドロと、木の根や岩で苦しめられるようになる。
読売新道の下りにおいて、最も辛いのはこのドロ道の通過ではないかとつくづく思った。
ここを歩く場合においては、スパッツが大活躍するだろう。








   
   
13:05 指導標 4/8     

 しばらく樹林帯が続いた後で尾根を乗越し、少し下ると再び視界が開けてくる。
紅葉と草紅葉で彩られた小さな日本庭園のような空間だった。

 ここでは指導標 4/8が設置されている。
2時間少し前に赤牛を出発してからようやく半分下ったことになる。

 この後に突入する樹林帯では延々と続く泥道との格闘となる。
足元はスパッツで防御しているとはいえ、ここで尻餅を付く事態は後々のことを考えると絶対に避けたい。
最大限集中して足を運んでいくが、脚の置場となる木の根や岩もドロドロで滑りやすい。

 時々平坦なところに出れば深い泥で足を取られる。
ここではNZで膝まで泥に浸かったことを思い出したが、今回はだいたいスパッツが汚れるまでで抑えることが出来た。








   
     
読売新道下部は日当たりの悪い深い樹林帯で、登山道は常に水気があると考えて差し支えない

 常には気持ち良く歩いているところを撮影したい気が働くが、この読売新道ならではの難所も撮っておかなければと
登山者が途切れるのを待ってまで撮影。自分撮りも良い小休止のきっかけになると改めて気づいた。








   
 
13:51 指導標 3/8    

 ドロドロの下りがどのくらい続いたのかもうはっきり覚えていないが、果てしないと感じた苦しい経験だったことは確か。
少なくともこの3/8までの間殆どずっとだったと思う。地面が乾いていることの有難さが身に染みる。

 3/8ではもう展望は得られないが、木々の向こうに高く遠くなってゆく烏帽子付近の稜線が垣間見える。
もう今日の行程も終盤に入りつつあるが、この時点で既に行動時間は12時間を越えている。
この行動時間の長さは裏銀座縦走すら楽に感じられるもので、12時間越えは考えてみれば六甲全山縦走以来となる。
とはいえ荷の重さはその時とは比べものにならない。全縦のことを思い出したらレモン水や甘酒が飲みたくなってきた。








   
   
出発地の雲ノ平からは既に別世界。黒部の深い谷に降りつつあることを実感出来る。








   
   
ロープ、ハシゴ、鎖、そして木の根まで使えるものはなんでも使う ここを歩いた経験は一生忘れることはないだろう   

 ドロドロだった登山道はやや落ち着きを見せてくれるものの、今度はアスレチック的な下りが延々と続くようになる。
既に長時間行動で蓄積されている疲れは相当なもの。適度に小休止を入れて集中力を持続させて下りたい。
とはいうものの下りでもしんどいが、ここを登りに使ったらどうなるだろうか。
難関の読売新道を下りながら、いずれは登りでも歩いてみたいなどと考えている始末だった。








   
   
黒部湖を遠望して読売新道の長大さを改めて思い知る    

 正確にいえば読売新道は黒部湖よりだいぶ手前の東沢出合にある奥黒部ヒュッテまで降りて終点となる。
よって見えている湖面よりは今日の行程の終わりは近いのだが、おおよその距離感を掴むには充分な光景だった。

 また下っても下っても湖面との標高差がなかなか縮まらないように感じる。
それだけこの読売新道の下りは侮れない。








   
     
14:30 指導標 2/8    

 時折射し込む日差しが西に傾いてきているのを感じつつ、木の根が積み重なった2/8に到着。
残り2分割となったが、ここからが長いと考えたほうが精神衛生上は良いだろうな。

 小休止の度に前後入れ替わる自分とペースの近い方々とすっかり顔なじみ?になったようで、
このようなことでも今日の行程の長大さを感じると共に、今とても貴重な時間を過ごしていることを自覚する。




 延々と続く深い樹林帯の下りにおいて、段々と自分撮りさえも億劫に感じられるようになってしまう。
もう出発してから13時間経っているのだから、早く目的地に辿り着きたいと思うのも仕方ないだろう。

 幸いなことは登山道が乾いている状態のところが多くなってきたことで、いくらかペースアップすることが出来たこと。
もちろん安全に問題ない範囲内ではあるが、少し足の運びを速くして下っていった。








   
   
15:09 指導標 1/8  随分と傷んだ状態の1/8。クマにでも引っかかれたのだろうか。   

 ザレた急坂と崩壊地を通り過ぎて、新たな尾根に乗り上げたところが1/8。
登り返しで顔を上げたら目の前に1/8の指導標があったという感じだった。

 長らく下りの指標となってくれた8分割の指導標もこれが最後。
今までの指導標の間隔からすると、残る行程はあと1時間弱のはずだ。

 ややペースアップして下ってきたことで、身体はこの時明らかに休養を欲していた。
1/8地点で最後となるはずの小休止をとっていく。
この時点でたくさんあった筈の行動食がだいぶ減ってきていた。奥黒部ヒュッテで少し買い足そう。








   
 
東沢の水音が大きくなってくるのを励みに下り続ける

 右手に東沢の深い谷とその流れを見下ろせる。
空模様はいつしかすっかり曇天となってしまった。いつしか好天の下で改めて赤牛に立ってみたい。

 登山道は珍しく落ち着いた尾根道となる区間が増えてくる。
あとはどこかで尾根を外すはずだと考えつつ下っていくのだが、結局それがどこだったか曖昧なままになってしまった。
読売新道は一度歩いただけでは、なかなかその全貌を掴み切れない感じがする。








平ノ渡場 ← 奥黒部ヒュッテ ←→ 赤牛 → 水晶

 水晶から奥黒部ヒュッテへの道のりもまもなく終わろうとしている。
一言でいえばとにかく「長い!」

 しかし、奥黒部ヒュッテに辿り着いたことで気を抜いてはいけないことを4日目の行程で思い知ることとなる。

 この指導標の近くには、4日目の行程で歩くこととなるダム湖沿いを通過中に
鉄砲水により行方不明となった2人の登山者の慰霊碑もある。
今日に続いて明日の行程も天候判断が重要となる。

 
   
長い長い急坂を遂に下り切り、登山道が平坦に。そしてどこからか自家発電のものと思われるエンジン音が聞こえてきた!








   
     
15:54 奥黒部ヒュッテ(1,490m+)到着

 森の中に忽然と建物が眼前に現れた感じだった。
遂に長い長い行程を歩き通して、念願の奥黒部ヒュッテに到着!!
雲ノ平キャンプ場を出発してから約14時間30分の道のりだった。
裏銀座縦走以上にとてつもない達成感に包まれて、万感胸に迫るものがあった・・。




 一しきり撮影して落ち着いたところで、さっそくテン泊の申込を行う。
奥黒部ヒュッテの受付のご年配の男性は飄々としておおらかな方だった。
それほど広くはないヒュッテの中は多くの登山者で大賑わいだった。

 このヒュッテでは常には入浴出来るのだが、施設は一般家庭にある浴槽と同様のもの。
入浴したくてもシルバーウィークの入り込みでは事実上不可能だった。

 奥黒部ヒュッテのメリットの一つは、水の豊富さだろう。
その立地条件から美味しい水を無料で汲み放題だ。
この後乾いた喉を潤して顔を洗ったのは言うまでもない。

 そしてテン場はヒュッテから僅かに下ってすぐのところにあった。








   
   
奥黒部ヒュッテ・キャンプ指定地(1,480m+)    
 
 東沢出合の広い河原を利用したテン場で地面は柔らかい砂地。かなり広いテン場でスペースは十分余裕がある。
アンカーに出来る岩は少ないが、ペグは充分に効いた。でもペグが硬い岩盤に当たるところも点在。
それでも稜線上と違って、あまり強風の心配はないだろう。それよりここでの最大のネックは虫の多さだった。
秋の稜線上ではあまり問題にならないが、ここは虫除け対策は必須だった。

 自分がテントを張った後も、読売新道を下ってこられたと思しき方々が続々と到着されていた。
自分を含めてこれほどの達成感に包まれてテントを張ることもそうそうないだろう。

 そんな良い時間帯に重大なトラブルに気付く!!

 なんとバーナーに不具合が生じているようで、ガスが全く点火出来なくなっていた。
今日未明の雲ノ平までは普段どおりに使えていたが、本当にトラブルは突然にやってくるものだ。

 山行記録作成時点では、既に修理に出したことで不具合の詳細は分かっている。
バーナー基部に付いているパッキンが潰れていたのだった。
これまでバーナーとカートリッジを繋ぐ際に締めすぎていたらしい。これからは力の入れ方を加減しよう。

 ということで、ヒュッテで買い足したのと合わせて、今日夕食と明日朝食は行動食で乗り切ることになった。
大入りの奥黒部ヒュッテでは夕食も弁当も急遽用意いただくことは不可能だった。

 当然ながら夕食用の食料は湯が沸かせないと食べれない。
雲ノ平から奥黒部ヒュッテというこれ以上はないほどの長丁場を歩ききったまでは良かったが、
バーナーの故障という有難くない経験までして、波乱万丈の長期縦走となってしまった。
一つだけ幸いだったのは、バーナーが故障したのが行程の後半になってからということだろう。








   

 「雲ノ平/読売新道縦走4日目・奥黒部ヒュッテからロッジくろよん」へと続きます。

 
行程断面図です




 

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