「仙塩尾根縦走(1) 鳥倉から北沢峠へ」 2017年 9月 2日(土) |
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国土地理院地形図 : 25000分の1 「仙丈ヶ岳」、「間ノ岳」、「塩見岳」 今回は南アルプス北部においてずっと惹かれていた仙塩尾根を縦走します。 この尾根はその名のとおり、仙丈ヶ岳と塩見岳をつなぐ長大な稜線です。 稜線のかなりの部分は深い樹林帯に覆われ、また大きなアップダウンを伴うことから別称「バカ尾根」ともいわれているとか。 そこをバカでかいテン泊装備のザックを背負って縦走する自分は大バカモンかも…。 百名山の仙丈ヶ岳、及び塩見岳は多くのピークハントの登山者で賑わっていますが、 仙塩尾根に入った途端に人けが無くなるので一定の緊張感というか気合が必要です。 この南北に延びる尾根を縦走するにあたって、最も問題になるのは入下山地点が大きく離れること。 メジャーな仙丈側の北沢峠はともかく、塩見側の登山口である鳥倉のアクセスの不便さが要注意です。 また仙塩尾根のグレードを上げている要素の一つが山小屋(幕営地)間の距離。 キャンプ指定地の無い山小屋もあることから、テン泊装備の登山者は1日辺りの行動時間が長くなります。 仙丈ヶ岳は南アルプスにおいては例外的に山小屋が多いですが、長衛小屋以外ではキャンプ指定地はありません。 同様に塩見岳でも三伏峠小屋の一箇所でしかテントを張れないことが要注意です。 テン泊装備で縦走するのは大変な尾根ではありますが、踏破の達成感は得難いものがあるでしょう。 特に自分の場合は、仙丈ヶ岳と塩見岳とも初めて登る山ということもあって中身の濃い縦走になります。 縦走に取り掛かる前に、まずは不便なアクセスの問題を解消しておくことにしました。 2日(土)未明 長野市より約4時間の下道運転で鳥倉ルート入山口にあたる鳥倉林道、越路駐車場へ到着。 少しだけ仮眠をとる。夜中は雨が降っていたが、早朝までには止んでいた。 |
行程概要 GPSデータをカシミールに取り込んでいます。 ※ 9月2日(土)は北沢峠から長衛小屋までの極めて短距離の歩行なので、 GPSを起動させていません。 |
4:50 越路駐車場(1,650m)出発 | |
続々と塩見へ向けて登山者が出発していくのを横目に、自分は自転車に乗って麓へ下り始める。 周囲の人から見ればどこへ行くのかと訝しく思われただろう。 鳥倉の登山口へは7、8月の繁忙期においては本数が少ないながらも伊那大島駅からのバス便があるが、 9月になると基本的にマイカーで来るしかない。(財政に余裕があればもちろんタクシーも有り) しかし麓の大河原まで下りれば路線バスが走っているので、これを活用出来ないかと調べてみた。 すると本数は極めて少ないながらも、朝に伊那大島駅へ向かう便があるので使えそうだ。 これに気付いた時、鳥倉に車を置いてから北沢峠へ向かう算段が立ったと喜んだ。 もともと旅行管理好きの自分にとって、途切れ途切れだったパーツが一本の線に繋がったようで興奮を覚えた! 越路駐車場より路線バスの出る大河原バス停まで約16km。 過去に自転車を用いた場合の自分の山行記録を見直してみると、約1時間で大河原へ着くと予想出来た。 しかしバスに乗り遅れることは絶対に避けなければならないので、だいぶ余裕を持たせて出発する。 自分が自転車で下っていく時も、越路へ向かう何台もの車と続々とすれ違う。 駐車場に停まっていた車は本当に全国各地から集結しており、「日本百名山」のネームバリューの大きさを改めて実感する。 鳥倉林道は舗装されており大部分は下りか水平で、自転車のダウンヒルにはほぼ支障はない。 段差や溝にタイヤを引っ掛けないように、注意深くスピードを加減して下りていく。 |
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5:53 大河原バス停(720m)到着 | 6:37発、伊那大島駅行きのバスを待つ |
ほぼ読みどおりに1時間で大河原バス停に辿り着いた。 大役を果たした自転車は、縦走を終える日まで邪魔にならないところにデポしておく。 バス停付近はたまに近所の方が朝の散歩で通り掛かる以外は静寂に包まれている。 バスがやってくる6:37までのんびりと待った。 6:38 ほぼ定刻どおりにやってきたバスに乗る ¥500 やってきたバスはやや車長が短く、山岳路線などでよく見かけるタイプのものだった。 時刻表を見てのとおり、バスは1日で2、3本しかない。 曜日によっても違ってくるので、もしこの山行記録を参照される場合、必ずバスの運行会社のホームページで事前の情報収集をしっかりと行っていただきたい。 始発の大河原から乗車したのは自分だけだったが、途中のバス停で地元の方々を拾いながら伊那大島駅へ。 この日は土曜だったが、混雑することはなくゆったりとしたバス旅となってさっそく眠くなった。 |
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7:30頃 JR飯田線・伊那大島駅到着 | 屏風のように連なる中央アルプスの稜線を見上げる |
ほぼ定刻どおりに伊那大島駅へ到着。 山あいの大鹿村では曇っていたが、街まで下りてくると晴れている。 駅舎に入ると切符の自動販売機は無く、代わりに駅員から直接乗車券を購入した。 伊那大島〜伊那市まで¥670。 飯田線は単線だが伊那大島では列車交換が可能になっているため、ホームは上り下り対面式になっている。 飯田線を使うのも初めてで方向感覚が怪しかったので太陽の向きで確認した。 7:41発 岡谷行普通にて伊那大島発 伊那大島が始発だった2両編成の電車に乗り込んだ。 東側の南アルプスはびっしりと雲が張り付いて見えないが、逆の中央アルプスはきれいに稜線が見えていた。 自分は南北アルプスを優先しているので、中央は全く手付かずの山域となっている。 いずれはここもくまなく歩きまわりたいものだ。 ところで飯田線は伊那〇〇と、伊那が付く駅名がやたら多くて土地勘が無いと間違えそうだ。 |
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8:53 伊那市着 | JR飯田線・伊那市駅 |
約1時間10分で伊那市着。 目指す北沢峠までは、まだバスを3つ乗り継がなければならない。 次は高遠へ向かうJRバスに乗る。 伊那市駅の改札を出てすぐのところに乗り場がある。 9:00 伊那市駅発、JRバス関東・高遠駅行きバスに乗車 ¥520 またも始発から乗ったのは自分だけ。途中であと一人だけ増えたが、車内はガラガラのまま高遠へ。 バスの車窓は再び東側の山々に近づいていくのが見える。 |
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9:23 高遠駅着 | |
行く先々全てが初めての行程で楽しく高遠に到着。城下町の風情を残す趣ある街だ。 ここで既に待機している長谷循環バスに乗り換える。 9:30 長谷循環バス・岩入行きバスに乗車 ¥310 乗客は自分を含めて2人。 途中で1人は下りて、また自分だけとなった。 バスは高遠を離れて更に山あいへ入っていく。 |
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9:57 仙流荘バス停(860m)着 | 乗り継ぎの旅で最後のバス。南アルプス林道バス |
路線バスの長谷循環バスでは仙流荘も途中の停留所の一つに過ぎないので居眠りなどによる乗越注意。 車内アナウンスに従って予め降車ボタンを押しておき下車する。 ここでようやく、多くの方のレポで見てきた仙流荘バス停に到着した! さっそく北沢峠までの片道切符を購入すると、待つ間もなく北沢峠行きのバスがやってきたので乗り込む。 乗客は自分を含めて4人だけ。 下調べでは12:10発の便まで待つことになっていたが、やってきたのは臨時便だったのだろうか。 南アルプス林道バスは待ち客の状況に応じて臨時便もあるかもとは聞いていたが予想外の展開だった。 10:05 仙流荘バス停出発。時刻表になかった臨時便?の南アルプス林道バス、北沢峠行きバスに乗車 ¥1,340(片道) バスの運転手さんの上手なガイドを拝聴しながら、初めての北沢峠までの車窓風景を楽しむ。 標高の高いところはガスっていて稜線は見えなかったが、深い渓谷を刻む戸台川の眺めは圧巻だった。 南アルプス林道バスによって、標高860mの仙流荘から標高2000mの北沢峠まで一気に上がっていく。 |
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10:55 北沢峠(2,030m)到着。寒い! | 静寂と霧に包まれた北沢峠 |
鳥倉林道を出発して約6時間。 自転車 → 伊那バス → JR飯田線 → JRバス関東 → 長谷循環バス → 南アルプス林道バス、といろいろ乗り継いでようやく北沢峠へ到着した。 鳥倉からこれまでに掛かった旅費は合計¥3,340だから、タクシーを利用した場合に比べると破格に安く済んだ! バスから降りた途端に日差しが無かったこともあってか寒かった! 自分が辿り着いた時の北沢峠は静寂に包まれていたが、おそらく朝夕は入下山の登山者で混みあうだろう。 待合室でザックなどの荷を整えてから、今日の目的地である長衛小屋へ向かう。 長衛小屋へは北沢峠から南アルプス林道を山梨県側へ少しだけ下ってすぐのところにある。 初日の歩行距離は近所のコンビニに買い物に行く程度の距離しかない。 |
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長衛小屋への分岐 | 明日ここから仙塩尾根縦走の長い行程が始まる |
林道を少し下ったところで北の甲斐駒側への脇道へ入る。 たくさん指導標が立っているので初めてでも見落とすことはないだろう。 林道の反対側には明日暗い時間帯から登っていく登山口があるので、これもついでに確認しておく。 北沢峠のバス停横にも仙丈への登山口があるが、長衛小屋を起点にするならここから登るほうが便利だろう。 どちらから登っても途中で合流して、スムーズに仙丈へ向かうことが出来る。 |
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11:25 長衛小屋・キャンプ指定地(1,980m)到着 | 長衛小屋(1,980m) ※数年前に旧北沢駒仙小屋より改名されたよう |
北沢峠から約10分。汗を掻く間もなく長衛小屋のテン場に到着した。 ここは北沢峠、仙丈・甲斐駒近辺において、たいへん貴重な唯一のテン場となっている。 テン場は大きく二段の敷地に分かれているようで、写真に写っているのは小屋と出入口に近い上段側。 明日、超早発の自分は出来るだけ出口に近いところに張りたいので、人通りの多いことは分かっていても出口横に張ることにした。 もっとも自分が到着した時点で上段側は9割がた埋まっていて、選択の余地はあまりなかったのだが。 殆どの方が朝のバスで到着し、テントを張った後で仙丈か甲斐駒へ登られているのだろう。 テントはたくさんあっても、この時間帯はいたって静かで不思議な感じだった。 重たいザックを即決した場所に置いてから、長衛小屋でテント泊の受付を済ませる。 テント幕営料は1泊¥500で、稜線上のテン場よりかなり安い。 |
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午後からは意外に日当たり良好となった | 今回も重たい食材から片付ける。直前に買っておいた野沢菜のおやきが美味しかった! |
鳥倉からの乗り継ぎがあまりにスムーズに行き過ぎて、時間を持て余し気味だったが英気を養うことは出来た。 午後遅くなるにつれて、仙丈か甲斐駒から降りてこられた登山者でテン場が賑わってきた。 この日は下界から見れば雲が目立っていたが、頂上のほうではけっこう晴れ間があったようだ。 偶然にもお隣の方が自分と同じニーモのテントで、これは意外にも初めてのケースだったかもしれない。 なお長衛小屋のテン場では携帯は圏外となっていた。 15時頃には夕食を済ませ、17時くらいには就寝することにした。 縦走初日から長丁場の行程なので事前の検討の結果、0時起床、2時出発としていた。 このために前日からやや寝不足気味にしておき、朝からの移動中に眠くなっても我慢して起きていた。 しかしこのテン場はバス停に近く、半ば下界のキャンプ場と同じような立地条件。 しかも大半の登山者が甲斐駒・仙丈へのベースキャンプとしてテントを張っているため、 縦走目的の自分の就寝時刻が最も賑やかになる夕食時間帯と被るのは予想出来たし仕方がないこと。 周囲がいくら盛り上がっていても、まだまだ明るい時間帯であっても、 明日の行程を考えれば早く寝なくてはいけないので今回はアイマスクと耳栓で安眠対策は万全にしていた。 それでも全く物音が聞こえなくなるわけではないのですぐには寝付けなかったが、18〜19時くらいには眠れたようだ。 |
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甲斐駒、仙丈周辺の登山道の開削、そして長衛小屋を建てた竹沢長衛翁のレリーフ | |
「仙塩尾根縦走(2) 長衛小屋から仙丈ヶ岳を経て両俣小屋」 2017年 9月 3日(日) |
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下山地点に車を置くために前置きが長くなってしまいましたが、2日目からようやく実質的な行程開始です。 9月3日行程分の地形図(GPSデータ) (別ウィンドゥが開きます) 9月3日(日) 0:00 起床 とりあえず6時間近くは眠れたのですんなりと起きることが出来た。 2:00 長衛小屋・キャンプ指定地(1,980m)を出発 この時間帯でも小屋の周辺ではナイトハイクに出発される方がちらほらと見られた。 但し殆どの方が甲斐駒へ向かわれたようだ。 今日が初日の行程ながら、両俣小屋までの長丁場となる。 大まかにいうと仙丈ヶ岳まで1,000m登って、両俣小屋まで1,000m下るというダイナミックな?行程だ。 しかも時間的には仙丈ヶ岳の登りはまだまだ序盤。 仙丈を越えるまでは出来るだけ体力を温存するつもりで、ゆっくりめにペース配分して登りたい。 昨日、北沢峠から歩いてきた道を戻って、確認しておいた南アルプス林道脇の登山口から登り始める。 大人気の仙丈への登山道なので、よく踏まれていて歩きやすい。 二合目で北沢峠から通じる尾根道と合流すると、あとは樹林帯の尾根を黙々と登っていく。 日曜の早朝なのでいくらか人通りはあるとみていたが、森林限界に達するまで誰にも会わなかった。 |
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4:04 大滝ノ頭・五合目(2,520m) | |
藪沢、馬の背方面へのルートが分岐する大滝ノ頭・五合目に到着。 周囲はまだ樹林帯で見通しは利かないが、小広くなっていて小休止にちょうど良いところだ。 |
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4:37 六合目(2,660m) | 樹林帯は抜けたがまだまだ登りは続く… |
空が白み始めたころに森林限界を越えて六合目に到着。 背後にはシルエットの甲斐駒が威厳たっぷり! まだまだ登りは続くが、開放感のあるハイマツ帯に変わって意気が上がる。 まもなくしてヘッドライトは不要となるほど明るくなってきた! |
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5:23 小仙丈ヶ岳山頂(2,864m)到着 | 早川尾根〜鳳凰三山もそのうち縦走したいところの一つ |
ちょうど日の出と同時に小仙丈ヶ岳山頂に到着した! 早川尾根のアサヨ峰から朝日が射してくる。少し前の「聖〜荒川三山」の時と違って、空気がかなり澄んでいて秋を感じた。 これまで続いてきた急登は小仙丈ヶ岳山頂をもって一旦落ち着く。 小仙丈ヶ岳に着いた頃から、登山者の往来が急に盛んになってきた。 |
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小仙丈ヶ岳から仙丈ヶ岳山頂方向を見通す | 朝日を浴びて神々しい小仙丈沢カール |
小仙丈ヶ岳まで登ってきて初めて、仙丈ヶ岳の優美な姿を眺めることが出来る! 南アルプスの女王といわれているのが納得出来る優美さだと思う。 森林限界を越えて小仙丈まで辿り着いたものの、仙丈の山頂に登り詰めるまではまだ時間が掛かりそう。 景色を堪能しながら小休止をとっていくことにする。 5:31 小仙丈ヶ岳山頂出発 しばらく緩やかな尾根が続くが、一転して短いが急な岩場の下りとなる。 早く仙丈の山頂まで到達したいところだが、足元に注意してゆっくりと通過する。 |
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5:57 八合目(2,830m) | 早くも達成感を得られる光景が広がる。昨夜テントを張っていた北沢峠付近は雲の下に。 |
八合目を過ぎると再びハイマツ帯の広がる尾根を登っていく。 朝日を浴びて気持ち良いのだが、早くも脚には徐々に疲れを感じ始めてきた。 それでもペースを加減してハイマツ帯の登りでぐんぐん標高を稼ぎ、振り返ると先程まで居た小仙丈ヶ岳も低く遠くなっていく。 |
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6:22 仙丈小屋分岐(2,940m) | |
ハイマツ帯の登りが続くなか、山頂直下にある仙丈小屋への分岐を見送る。 だいぶ登ってきたように感じるが、目指す仙丈の山頂はまだ見えてこない。 |
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山頂を取り巻く尾根の最上部に出る | 標高1位、2位の山が並んで見える |
どうにかハイマツ帯の急登が終わると、遂に藪沢カールを抱いた仙丈の山頂が見えてくる! 雄大に尾根を広げる山にしては意外なほど狭い山頂に、人が多く立っているのですぐにそれと分かった。 藪沢カールの上を通過していると、南東側には富士山と北岳が並んで見えてくるのが印象的だった。 山頂のすぐ手前で仙塩尾根への分岐を一旦見送って、遂に待望の仙丈ヶ岳山頂に辿り着いた! |
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6:52 仙丈ヶ岳山頂(3,033m)到着! | ピーカンの仙丈ヶ岳山頂(3,033m) |
約5時間掛かってようやく初めての仙丈ヶ岳山頂に辿り着いた! まだ混んでいるとまではいかないが登山者が絶えることはなく、南アルプスの中でも人気のある山だと頷ける山頂だった。 疲れないようにとペース配分してきたつもりだったが、標高2,000mからの登りとはいってもやはり楽ではなかった…。 まだまだ先は長いが自分にとって初めての仙丈であるし、息を整えるためにも出来るだけ滞在していきたい。 |
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今回の縦走において一つめの三角点。二等三角点「前岳」。後方には甲斐駒。 |
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昨日、バスや電車を乗り継いだ伊那谷、そして北アルプスの山々まではっきりと見通せる | 眼下に広がる藪沢カール。かつては仙丈小屋付近でもテントを張れたそうだが… |
仙丈ヶ岳山頂からの眺望は本当に素晴らしかった! 縦走ではなくて北沢峠へ引き返すならば、本当にいつまでも眺めていたい絶景だった。 写真ではわかりにくいが、仙丈小屋にちょうどヘリコプターが飛んできていた。 仙丈小屋は本当に山頂直下にあるのを初めて見て納得した。 もしあそこでテントを張れれば昨日のうちに上がっておくことで、今日の行程をかなり楽にすることが出来ただろう。 藪沢カールの向こうに見える馬の背にも惹かれる。丹渓新道というルートを辿ると歩けるようだ。 いずれかの機会に仙丈に再訪することもあるだろう。 7:12 仙丈ヶ岳山頂出発 列を成したツアーの方々も到着し始めて山頂は次第に混み始めてきた。 滞在時間約20分をもって仙丈の山頂を出発する。 |
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この分岐を過ぎて遂に仙塩尾根へ | |
登山者の絶えない賑やかな仙丈とはこれでお別れ。 ここから先は人けが無くなるので、別の意味で気合を入れ直さなければならない。 |
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遂に仙塩尾根縦走開始だ! | |
仙丈山頂から南に伸びる仙塩尾根へ踏み込むと、本当の山頂以上に堂々とした大仙丈ヶ岳にまず惹かれる。 そして次第に標高を下げつつ深い樹林帯に包まれてゆく長大な仙塩尾根。 縦走の果てに辿り着くはずの塩見は遥か彼方…。写真でも見分けにくいが塩見と悪沢がほとんど重なって見えていて分かり辛い。 所要時間からすれば縦走可能なはずなのだけど、あそこまで辿り着けるのかと感じるほど遠くに見える。 |
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狭い岩稜を通過して大仙丈へ迫っていく | |
部分的には花畑(この時期は花は少ないが)を通過するところもあったが、大仙丈まではガレ場や岩稜帯が多かった。 特に伊那側は絶壁になっているので、慎重に足を運んで通過した。 |
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7:53 大仙丈ヶ岳山頂(2,975m)到着 | |
登り返して大仙丈ヶ岳山頂に到着! 狭いうえに混雑し始めていた仙丈の山頂に比べると、こちらのほうが広い上に先着の登山者が一人だけだった。 ちなみにこの方は仙丈からピストンで来られたそうで、まもなく引き返していった。 仙丈の山頂と同じく、大仙丈も展望が素晴らしい。 すぐ通過するには惜しいのでここでもザックを下ろして小休止を入れていく。 自分が滞在中に仙丈からテン泊装備の単独男性登山者が到着される。 この後はこの方を含めて、自分の前に2人が先行される形となる。 またこの時お会いした方とは、両俣小屋でも一緒にテントを張ることになる。 仙丈ヶ岳を離れて仙塩尾根に入った途端、前後の登山者の動向をお互いに把握出来るほどに人けは少なくなる。 この自然なやり取りとそれに伴う緊張感が本当の深山に分け入っているようで、自分としてはなぜか癖になる心地良さを感じてしまう。 8:10 大仙丈ヶ岳山頂出発 大仙丈も離れ難い山頂だったが仙塩尾根はまだまだ果てしなく続くので、程好い滞在時間をもって出発する。 後で到着されたテン泊装備の方は既に先行されている。 |
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大仙丈を過ぎると一転して二重山稜に | ケルンを横目に二重山稜から東斜面へ抜ける |
大仙丈直下からは二重山稜の複雑な地形が広がっているが、今日のように好天で見通せれば全く問題なく通過できる。 またマーキングはあるので、視界不良の際は注意深くルーファイして進みたい。 山と高原地図/北岳・甲斐駒(2014年版)ではルートが2つ並走しているように書かれているが自分は気付かず、 南隣の2,940mは巻いて通過する形となっていた。 |
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東斜面のトラバースはしばらく続く | |
下方の樹林に覆われた尾根を見やりつつ、山腹道をゆっくりと下っていく。 ところどころでザレて滑りやすくなっているので注意。 この下りはしばらく続き、登りで通過するには辛そうなところだ。 ところで自分は基本的には順光で歩くのが好きなのだが、今回は逆光となる南向きでの縦走。 仮に北向きで縦走した場合は、鳥倉に戻る際にどうしてもタクシーが必要になってしまうこと。 そして野呂川越から仙丈ヶ岳への登り返しが長いことで、全てテン泊で通すのが難しくなってしまいそうと予想した。 でも南向きでも登り返しの点においては、塩見を越える行程も辛くて長いことを2日後に体験することになる。 |
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8:37 長い下りは一段落する | 伸び気味のハイマツ帯ではポールが使いにくい |
大仙丈からの下りが一段落したところで小休止を入れた。 眼前にはハイマツ帯に覆われた尾根が伸びている。 この辺りから地形図を見る限りでは、緩やかな下りが続いて歩きよいように感じる。 でも実際には小刻みにアップダウンを繰り返すうえに、生い茂ったハイマツ帯を掻き分けるなど腕力も必要だった。 ということで地味にしんどい区間が予想外に続くこととなった。 |
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次第に離れゆく仙丈ヶ岳、甲斐駒を振り返る | 緑濃い仙塩尾根は延々と続く |
予想外の歩きにくさで下りでもペースが上がらないが、それでも振り返ってみると縦走の醍醐味を楽しむことは出来る。 仙丈、大仙丈は相変わらず優美な姿で見送ってくれるし、甲斐駒はいつでも凛々しく格好良い。 山と高原地図によると、仙丈ヶ岳から伊那荒倉岳辺りまで下りで3時間とあるが、自分はこれよりもだいぶ掛かりそうだった。 ルートは幅広の仙塩尾根の北岳側、伊那側の双方を行き来しつつ、総合的には下りていく。 でも頻繁に地味な登り返しがあるので下りでも疲れていた。 |
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仙塩尾根にはビバーク出来そうなところが点在する | |
もちろん緊急時に限られるが、テントを張れそうなところが何か所も見受けられた。 ビバークするにも水を確保しなければいけないので、そう簡単に出来ることではないが頭の片隅には置いておきたい。 |
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9:58 2,755m標高点ピーク付近 | ハイマツ帯は意外に消耗するので樹林帯に入るのが待ち遠しかった |
このミニピークにも登り返して辿り着いた格好となり息が上がっていた。 ここで登り方向の2人組の男性登山者と出会う。把握していた限りでは下りは自分を含めて3人だが、 意外にも登りの登山者のほうが多くて、合わせると10人に迫る人数だったかと思う。 この付近ではハイマツ帯を突破するのに精一杯で読図をする余裕は無く、 2,755m標高点ピーク付近というのも下山後にカシミールで撮影位置を推定して分かったことなのだが…。 この辺りから徐々に雲が目立ってきて、次第に高曇りの空模様となってきた。 でも今日を含めて3日間は天候がもつ見通しだったので、雨が降ることはまずないだろう。 |
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待ち遠しかった仙塩尾根の樹林帯へ突入 | 10:27 苳ノ平(ふきのだいら)付近を通過。※カシミールによる撮影位置推定で確認 |
2,755m標高点ピークを過ぎてしばらく下った辺りからようやく樹林帯となった。 やはりハイマツ帯と比べると格段に歩きやすくなった♪ 仙塩尾根は森林限界が高い南アルプスの特徴をよく体現した尾根であるともいえる。 展望が無くなるのは正直寂しい気もするが、せっかく深山の仙塩尾根を縦走するのだから樹林帯も楽しみたいと思う。 但し人影稀な仙塩尾根なので、やはりクマの存在が気になる。 自分の前に2人先行されているのは心強いが、鈴に加えてラジオも鳴らして出来るだけ賑やかにしておきたい。 |
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前方には深い樹林帯の尾根が延々と伸びている | 林床がシダに覆われた静謐なところも通過する |
これだけ果てしなく続く樹林帯の尾根は、南アルプス北部では仙塩尾根以外でなかなか味わえるものではないだろう。 もちろん白峰三山の華やかな稜線に比べれば圧倒的に地味なのだけれど、一度は体験してみたかった。 それはともかく行程の進み具合はやはり予想より遅れていて、両俣小屋に辿り着くのはお昼よりもだいぶ過ぎてしまいそうだ。 |
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11:05 伊那荒倉岳山頂(2,519m)到着! | 年代物の山名標が転がっている伊那荒倉岳山頂 |
見通しの利かない尾根を進んでいると、唐突に伊那荒倉岳山頂に飛び出した! 山名標や三角点が無いと普通に通過してしまいそうなところだったが、今日の行程においては要所の山頂だ。 ここで前述のテン泊装備の登山者さんに一旦は再会出来たが、この後は両俣小屋に至るまで追い付くことはなかった。 全く展望の無い山頂ではあるが、なかなか来れないところでもあるし出来るだけ滞在していきたい。 |
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今日二つめの三角点。三等三角点「荒倉岳」 | |
11:20 伊那荒倉岳山頂出発 2時に長衛小屋を出発してから、ここまでではや9時間超。 山と高原地図によると、野呂川越まで下りで1時間40分。そこから両俣小屋まで40分。 合計であと2時間20分だが、自分の場合は14時は確実に過ぎて到着しそうだ。 |
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11:27 高望池(2,450m) | |
伊那荒倉岳から50mほど標高を下げたところには高望池があった。でも池は完全に枯れている。 ここもビバーク適地の一つのようだ。この付近には細い水場があるようだが、現状では水は期待出来ないような気がする。 なお今日の行程においては途中で水の補給は期待できないので、長衛小屋出発時には合計3.5Lの水を携行していた。 仙丈の山頂直下にある仙丈小屋の水場は既に枯れているという情報も事前に得ていた。 枯れた高望池の畔でしばし立ち休憩をとっていった。 だいぶ疲れは感じてきていたが、指導標から両俣小屋の接近を感じ取れて元気付けられる。 なお両俣小屋は持ち込んだゴミでも受け取ってくれるという珍しい山小屋だという。 |
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いくつかのアップダウンを越えつつ南下。美しい樹林帯も変わらず続く | |
この写真を撮っている時に前方に登り中の3人パーティーの方が来られた。 人けが少ないとはいっても、全く歩いている人が居ないわけではないことに元気付けられる。 |
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12:08 独標(2,499m)到着 | 少し離れた前方には今日最後のピークが近付いてくる |
久しぶりの岩稜帯に出るとそこが独標だった。 あいにく仙丈方向は雲に巻かれて、近いところしか振り返ることが出来なかった。 それでも日差しが遮られたことで、風が通る独標ではかなり涼しく休憩することが出来た。 12:15 独標出発 独標まで辿り着いたことで、ようやく今日の行程も先が見えてきた感があった。 いくつかのミニピークの向こうには、今日最後に踏むことになるピークである横川岳が見えてくる。 西側にミニピークを抱えた支尾根を持つのが良い目印となっている。 |
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次第に近づく横川岳。40mほどの登り返しも付いてくるが… | |
独標を過ぎると再び樹林帯のアップダウンに突入するが、横川岳の接近を感じ取れるので元気付けられる。 今日最後の登り返しとなる横川岳へはとにかくゆっくりと耐えて登っていく。 |
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13:05 横川岳山頂(2,478m)到着 | |
なんとか登り返すと、三叉路のような形状の横川岳山頂に到着! さっそくザックを下ろして、休憩をとっていく。 前述の西側に伸びる間違い尾根には意外なほど明瞭な踏み跡が続いている。 これなら過去にここで道迷い遭難の事例があったことも納得出来る。 仙塩尾根の縦走路は南東側に伸びていて、ピークからの入り口には何個もマーキングのテープが目立つように付けられている。 13:16 横川岳山頂出発 横川岳を過ぎると今度こそ登り返しは無くなるが、 両俣小屋までは500m近くも標高を下げなければいけない。 特に野呂川越から両俣小屋の間は急坂が連続するので、最後まで気を抜けない。 |
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見上げるまでに高くなった北岳の偉容に目を奪われる | 北岳から中白根へ美しい稜線が伸びる |
横川岳からの下りでは意外に木々が疎らになっており、随所で北岳方面への展望が開ける。 北岳は朝方眺めていた時と全く違う姿になっていたことで、縦走の達成感を得ることが出来る。 いつしか白峰三山の稜線上には青空も見えていて、今あそこを歩いていたら最高に気持ち良いだろう。 |
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13:40 野呂川越(2,290m)到着 | 仙丈ヶ岳まで登りで5時間50分となっているが、自分の場合は下りでも6時間30分掛かっている。 |
横川岳からの下りは楽にこなして、遂に野呂川越に降り立った! 仙塩尾根はここを境に三峰岳へ長い登りが始まるが、それは明日何とかするとして一旦両俣小屋へと下っていく。 野呂川越から両俣小屋へは激下りとなるので、ここで一旦小休止を入れておく。 ここの指導標に書かれている所要時間で歩ける登山者はかなりの健脚だろう。 ここから三峰岳まで3時間と書かれているが、自分にはまず無理だと思う。 13:48 野呂川越出発 明日ここを登り返すのが思いやられるほどの急坂が始まった。 |
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写真の箇所はまだ歩きやすいほう。滑りやすい木の根や段差の大きなところもあるので慎重に | 14:05 2,150mの小平地で一息付ける |
明日暗いうちにいきなり登り返す区間になるので、その下見も兼ねつつ慎重にゆっくりと下っていく。 野呂川越〜両俣小屋間は下りで40分。登りだと1時間ということだが、自分の場合は登りだと1時間30分掛かると予想出来た。 途中の2,150mの小平地では仙塩尾根の稜線を見上げながら一息入れる。 明日は今日よりは行動時間が短いものの、また標高差1,000mを登り返さなくてはいけない。 小平地を過ぎると再び激下りとなるが、むしろ麓に近いほうが難所のような気がした。 もうだいぶ疲れていたことで撮影する気力は湧かなかった。 沢の水音が大きくなってくると、激下りはようやく落ち着いてきて沢に沿って歩いていく。 この最初に出合う沢が右俣沢で、両俣小屋は左俣沢との合流点を過ぎたところにある。 |
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14:29 両俣小屋(2,010m)到着! | 前日と違って静かで居心地最高。素晴らしいテン場だった♪ |
長衛小屋から12時間30分掛かってようやく辿り着いた! 長い長い道のりのおかげで縦走初日から達成感と疲労感が抜群だった。 さっそく小屋に入ってテント泊の受付を行う。 自分が説明するまでもなく、両俣小屋の女将さんの星さんは南アルプスにおいて有名な方。 お会いするのを楽しみにしていた方なので、初めて実際にお目に掛かることが出来て嬉しかった。 幕営料は¥500でテン場は小屋のすぐ横。 水場、トイレもすぐそばにあって便利だ。 テン場では先に到着されていた先行の方と暫しお話しさせていただいた。 この方は明日は左俣沢に沿って登って北岳を越える予定だったそうだが、このルートは7年前の台風で崩壊した箇所があるとのこと。 自分の山と高原地図にも記載のあるルートだが、おかげで仕方なく林道経由での下山も視野に検討されるという。 このあと結論は聞けずじまいだったのでどうされたのだろう。 |
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両俣小屋の小屋番?のネコ。直前まで寝ていたのだが警戒されてしまった | |
テントを張り終えてから、コーラの買い出しにやってきた。 毛布の上で気持ちよさそうに寝てるネコに癒される。ネコが居るのは星さんがネコ好きなことはもちろん、ネズミ対策のためとも。 ネコとネズミというと、仲良くケンカしな♪のフレーズが頭の中で流れるのは自分だけ? この時は星さんは気象通報を聞き取って、天気図を書かれている最中だったので、 買い物は男性のスタッフの方にご対応いただいた。 後ほど壁に張られた星さんの手書きの天気図を拝見してその的確さに感銘を受けた。 当日の天気図では移動性高気圧の中心が日本海の北に寄っているのが気になったが、 高気圧は南東の方角へ進んでいるのを見て明日明後日はまず大丈夫だろうと安堵出来た。 この日の両俣小屋のお客さんは登山者以外にも釣り客も居られるよう。 自分も「黒部の山賊」を読んで以来、イワナ釣りは機会があればやってみたいと思っている。 なお行程中には自分は一度もお会いしなかったが、最も先行されていたらしい山小屋装備の方も居られた。 なおダメ元で携帯を試してみたけど、やはり両俣小屋では圏外だった。 |
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今日、明日の行程をコーラを飲みながら確認する | |
今日の行程は長く、距離の上では仙丈・塩見のほぼ中間に近いところまで進んできたようだ。 明日も1,000mの登り返しはあるものの、両俣小屋から次の熊ノ平小屋までの所要時間は標準で5時間30分。 自分はもっと掛かるだろうけど、今日よりは行動時間が短くなるので気持ちは軽くなる。 日の出に合わせて野呂川越以南の仙塩尾根縦走を再開出来るようにと考え、 明日は1時30分起床、3時30分出発とした。 もっとゆっくりと両俣小屋のテン場の雰囲気を味わいたかったが、 到着時刻が遅かったことで、夕食から就寝まで慌ただしかった。 初日の疲れもあることだし、17時までには夕食を済ませ19時前には就寝した。 昨日と違って周囲に人の話し声は無い代わりに沢の水音はすごいので、ここでもやはり耳栓は必須だった。 深い谷にある両俣小屋のテン場だったが、満月近い月に照らされて明るい夜だった。 |
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「仙塩尾根縦走(3) 両俣小屋から三峰岳を経て熊ノ平小屋」へと続きます。 |
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行程断面図です |