「白峰三山縦走・北岳肩ノ小屋〜農鳥小屋」 2016年 8月 6日(土)

国土地理院地形図
 : 25000分の1 「仙丈ヶ岳」、「間ノ岳」





 1:15 起床

 テントから顔を出してみたら天の川が空を横切り、下界とは桁違いの星空が広がっている♪♪
今回は大丈夫と一安心して、逸る心を抑えて出発準備に掛かる。
2年前から宿願であり続けた、好天の下での北岳、そして間ノ岳登頂を遂に果たせる日がやってきた!








 行程概要 

 
 3:20 北岳肩ノ小屋(3,010m+)出発 2日目は北岳肩ノ小屋を出発後、北岳、間ノ岳を踏んで農鳥小屋まで。3,000m級の稜線歩きが続きます。

 肩ノ小屋母屋の東側を通って遂に北岳へ向けて出発。自分にとって2年前のピストンの思いが詰まった山頂への登りが始まった。
ヘッドライトの明かりを頼りにして、やや急な登山道をひたすら登っていく。
稜線東側は絶壁となっており、概ね西側に登山道が付けられている。

 両俣小屋分岐を過ぎる頃から傾斜は緩むが、岩が折り重なった広い岩稜はルートミスに注意(夜行、視界不良時)。
確か前回も同じ経験をしたと記憶しているが、今回も北岳の一つ北のピーク(3,180m+)に乗り上げてしまった。
3,180m+ピークから慎重に下って西側斜面を巻いている正規ルートに復帰。
小さなコルを経てもう一度登り返せば今度こそ待望の北岳山頂到着となる!!









 白峰三山は南アルプスで代表的な縦走路が整備されており、好天であれば最高の稜線歩きとなります。
但し悪天候では種々のリスクが増大するので天候判断が非常に重要。
北岳山頂南側は急峻で転滑落注意。一方、間ノ岳近辺は広大な稜線のために視界不良時のルートロス注意。
 4:10頃 北岳山頂(3,193m)到着  今回は全て見えてます!

 2年ぶりの北岳山頂に到着!!
登頂時はまだだいぶ暗かったので、撮影に充分な光量を得られるまで待ったうえで撮影。
もちろん待ち時間も無駄にはせず、今後の縦走に備えて行動食を摂ったり、日焼け止めを塗ったりしていた。

 まだ日の出前であったが全方位の展望が素晴らしく、本当にただただ最高の絶景だった!
前回のガスガスの状態での登頂という苦い経験もあって、心底感動して眺めていたのはいうまでもない。
何しろ2位以下は僅差とはいえ、北岳は富士山に次いで日本第2位の標高であり、白峰三山及び南アルプスの盟主。
日本アルプスの山頂はどこでも非日常の世界で圧倒されるが、北岳もそこに立っているだけで気分が高揚してくる。

 この間に、昨夕に肩ノ小屋前でお話しさせていただいた、自分よりやや若い男性の方(便宜上仮にKさんとします)と再会。
九州ご出身で今は山梨県に転居されているそう。自分とは多くの点で通じ合うものがありました。
山の話を中心に盛り上がり、結局この後は北岳山荘までご一緒させていただくこととなりました。

 Kさんと適度にお話しさせて頂きながら、日の出直前の北岳山頂からの眺望と撮影に夢中になった。








登ってきた肩ノ小屋方面の稜線を振り返る。甲斐駒がずっと雲を纏っている以外はクリアな状態。  北岳山頂東面の景観。足下は殆ど絶壁だ。昨日喘いで登った大樺沢二俣付近が遥か眼下に。 

 昨日の夕方に雲で見え隠れしていた、仙丈から鳳凰三山までぐるっと居並んだ光景が壮観だった。
そのうち甲斐駒だけはずっと雲が被っていて、焦らされるというか値打ちを持たせてくれている。
東側の鳳凰三山の中では、やはり地蔵岳の尖がりが気になってくる。
緩やかな稜線にある小さな尖がりは、自分としては蝶槍を思い起こさせてくれて懐かしい。

 そして遥か眼下には大樺沢二俣。北岳山頂から1,000mほどの標高差があることが納得出来る。
下からは雲に遮られて見えなかったが、この標高差をよく登ったなあと改めて達成感を得られた。








待望の北岳以南の稜線を見通す   

 南北に細長い北岳山頂は南端部分が最高点の3,193mとなる。
その山頂南端からは、この後縦走していく間ノ岳へ続く美しい稜線の眺めが感動的だった。
稜線の行きつく先にある間ノ岳のどっしりした姿は惹かれるし、その左奥には明日到達することになる農鳥岳が控えている。
更に逆の右奥にはかなり遠くに塩見岳を初めて眺める。
 この白峰三山縦走が契機となって、南アルプスもいずれはくまなく歩き回ることになるだろう。








本日のご来光。鳳凰三山の稜線付近から明るくなってきた。 朝日に照らされる北岳の山名標。後方には仙丈ヶ岳の稜線が横たわる。

 鳳凰三山越しに荘厳なご来光となった。
甲府盆地は一面に雲海が漂っているようで、盆地の向こうの山々が島のよう。

 山頂には既に多くの登山者が登ってきて、ご来光を迎えてあちこちから歓声が上がっている。
日が当たるようになってきたので、自分も写真撮影に忙しい。

 北岳山頂の山名標は2箇所あるけど、背景が隠れない柱タイプのほうが自分好み。
ここで自分も記念写真を撮ったが、背後には仙丈ヶ岳も写し込める。




 5:13 北岳山頂出発

 明るくなってゆく周囲の景観をいつまでも眺めていたい北岳山頂だった。
でも間ノ岳へ向かって待望の縦走を始めるので、重い腰を上げて出発することにする。
北岳山頂での滞在1時間をもって、2年前の鬱憤は完璧に晴らせた。

 先述のKさんも既に満足ゆくまで充分に撮影されて出発準備完了。
共に北岳から南下を遂に開始する!








遂に始まった白峰三山縦走の未踏区間。北岳南面の下りは急坂が連続する。   

 北岳山頂からの下りも殆ど西側斜面に付けられていて、滑りやすい岩屑の激下りが続く。
まだ歩いている登山者が疎らな時間帯だったおかげで、スムーズに足場の悪いところを下ることが出来た。
時々は北岳山荘方面からの登山者が登ってこられるが、要注意箇所が続くこともあってすれ違う場所の選定は慎重に。








 5:32 池山吊尾根分岐(3,090m+)  間ノ岳まで3.6km。2時間40分。 

 次に稜線上に戻ったところで池山吊尾根分岐に差し掛かった。分岐の横にある小さな岩塔はまるでケルンのようだ。
分岐は小広いのでゆとりを持ってザックを下ろせる。暑くなってきたレイヤリングの調節や小休止も済ませた。

 分岐の指導標が示すように北岳周辺だけでも複数のルートがある。
次に来る時は違う行程で北岳へ登ってみたいが、未だにガスガスの光景しか見ていない大樺沢二俣から右俣コースはリトライしなければと思う。




 池山吊尾根分岐だけは稜線上に位置していたが、分岐を過ぎると再び稜線西側を巻いていく。








間ノ岳へ続く美しいスカイラインが眼前に展開する   

 次に稜線に復帰したところは岩が折り重なったミニピーク状のところだった。
眼前には間ノ岳へ続く稜線が大きく見えてきて、その美しさに改めて惹きつけられる。

 この写真を撮影したところは地形図では等高線が閉じていない普通の尾根の一角であり、無名峰の隠れたピークだった。
Kさんともお話ししたが、ここが北岳の傍ではなくて全く違う場所にあれば、人が集う素晴らしい山頂になり得る。
深田久弥氏の百名山の選定と同じで、周囲のライバルの有無などの地理的条件というのは大きいと改めて思う。

 余談だがこの白峰三山縦走に先だって、登山歴12年目にしてようやく深田久弥著「日本百名山」を読む気になった。
そこで自分が登ったことのある山の頁から優先して読み始めた。白峰三山縦走には間に合わなかったが、今では全部読破してもう一度読み返している。
先月の剱山行でも「剱岳・点の記」を事前に読んだことで感動が更に大きくなり、本の力は大きいと改めて認識したのだった。








 6:02 再び分岐(横には同行中のKさんがゲスト出演?) 八本歯のコルに突き上げる大樺沢左俣コースに興味あり。雪渓が健在の時に登ってみたい。 

 ミニピークから少し下ったところで再び分岐に差し掛かる。
ここからは北岳山荘方面から北岳を通らずに広河原へ下るルートが分岐するので、広河原発着の周回行程で歩く際には有用になる。
分岐からは間ノ岳と中白根山の優美な姿が更に大きく見えてくるが、目指す間ノ岳までまだあと2時間掛かる。

 この分岐を過ぎると稜線は緩やかな地形となって歩きやすくなってくる。








北岳山荘が近づいてくる   

 すれ違うのも容易なゆったりとした登山道が続いていく。
写真では基本的に自分しか写っていないが、Kさんとお話ししながら歩いている。
お話ししながらのんびりと歩くのに相応しい、素晴らしい稜線漫歩だった。
左手には常に大きく富士山も見えていて、南アルプスを歩いているという実感が強く湧いてくる。
2週間前の剱とは本当に対照的なリラックス出来る稜線だった。

 ちなみにKさんはテント設営後、天候が許せば農鳥岳までピストンされるという。
自分のほうはかの有名な農鳥小屋を遂に初体験。小屋泊ではないがテントを張ることを伝える。
2人共周知のことだったが、農鳥小屋の親父さんは早く着かないと叱られる。
ただしどんなにゆっくりと撮影しながら歩いても、日の出過ぎに北岳を出発すれば確実に昼までには農鳥小屋に辿り着けることは事前に把握している。
農鳥の親父さんがどのような性格であったとしても、道中をしっかりと楽しむためにも、ゆとりを持った行程を組むのはいろんな意味で大事なことと思う。








 6:30 北岳山荘(2,880m+)  

 のんびりとお話ししながらゆったり下ってきて、遂に北岳山荘のすぐ裏手に差し掛かった。
Kさんとは山での再会を期してここでお別れとなった。この後Kさんが設営予定の北岳山荘のテン場も肩ノ小屋と同じく居心地良さそうだ。
自分も縦走後に農鳥小屋のテン場で早くのんびりしたい。親父さんと会うのも楽しみ?にして中白根山へ登り始める。








北岳山荘から再びいつもの単独行が始まる 北岳の美しい三角錐の姿が際立ってくる 

 北岳山荘は北岳と間ノ岳を繋ぐ稜線での最低コルに辺り、これから間ノ岳までは基本的に登り基調の区間となる。
この後は中白根山へ近づくにつれて、緩やかな登りは段々と急になっていった。

 下ってきた北岳は近いところからだと日の当たらない急峻な山肌と丸く見える山頂ばかりが目に付いたが、
少し距離が空いてくると端正な三角錐の姿が際立ってくる。
北アルプスの山々のような派手さは無いものの、文句なしに南アルプスの盟主に相応しい貫録を持っていると感じる。








再び傾斜が緩んでくると中白根山が近い  

 標高差約100mにわたって続く急坂を越え、中白根山が接近してくるにつれて再び緩やかな登りとなる。
ハイジが出てきそうな高原状のようなゆったりとした尾根を歩いていて、すごくリラックスした気分にさせられる。








 7:10 中白根山山頂(3,055m)到着 北岳を南側から眺め、一度は引き返した苦い記憶を述懐する

 縦走途中のミニピークらしくない広大な山頂に圧倒される中白根山に到着!
行く手には大きく間ノ岳が見えてはいるが、まだまだけっこう距離があることに驚く。
北岳から眺めると中白根山と間ノ岳はあまり離れていないように見えたが、あまりの山の大きさに距離感が狂うのだろうか。
標高差は大きくはないが、中白根山から間ノ岳の標準所要時間は1時間となっている。

 一方、北岳を振り返ると、やはり秀麗な姿で見とれてしまう。
鳳凰三山や甲斐駒を左右に従える光景を眺めて、2年間お預けとなっていた縦走を実現できたことを改めて実感する。

 北岳山頂を出発してから、殆ど休んでいないことをここにきて思い出す。
間ノ岳までまだしばらく掛かるので、北岳を眺めながら小休止をとっていく。




 7:18 中白根山山頂出発

 中白根山山頂はとにかく広い。歩き始めは縦走路の続きを見回して探したほど。
好天であればペンキなどのマーキングは容易く見つけられる。








間ノ岳へ向けて再び登り基調に   

 間ノ岳は北岳のように秀麗な山ではないものの、今までに登ってきた山には無いスケールの大きさを感じさせてくれる。
手の届くところまで近づいてきた間ノ岳に立つのを楽しみにして、岩稜の登りを越えていく。

 中白根山の南隣には同じ標高の3,055mピークがあるが、縦走路は西側山腹を巻いていく。
この南アルプス随一の縦走路においても、地形図の破線道は現状に即している。

 北岳山荘を過ぎてから軽装の登山者と多くすれ違うが、間ノ岳までピストンされる方が多いようだ。
でも間ノ岳までの距離を考えると、けっこう歩き応えがあって気軽なピークハントではないと感じる。
燕山荘から燕岳、蝶ヶ岳ヒュッテから蝶槍のようにはいかないだろう。








3,060m+付近にて。立ち休憩がてらに中白根山、北岳を振り返る。   7:45 ケルンが見えたのでもう間ノ岳に着いたのかと見間違った3,060m+。間ノ岳はまだ行く手にある。

 中白根山を過ぎると大きく標高を上げるわけではなく、10m、20mといった具合にじわりじわりと登っていく感じの登山道が続く。
やはり昨日の疲れが完全に取れてはいないので、行動時間の割には疲れを感じてくるのが早い。
下り中の登山者の方々とすれ違うのを機に立ち休憩を入れつつ(ついでに撮影を行うことも)、ゆっくりめのペースで南下を続ける。

 地形図を見たらピークではないのだけど、途中の3,060m辺りがケルンも見えたこともあって、結果的に近づくまでニセピークと気付かなかった。
短いがそれなりの急登を越えてみたら、間ノ岳はまだそれなりの距離を隔てて見える。普段地元の山を歩いている時の距離感がやはり通用しない・・。








ようやく間ノ岳へ接近中  好天の機会を待って良かったとつくづく感じた広い岩稜 

 山と高原地図などで見ていたよりも、実際に歩いてみると北岳と間ノ岳はけっこう離れている。
百名山の深田氏が白馬三山や立山三山などと比べて、白峰三山は一峰一峰があまりに大きくて離れていると記述されていることを改めて感じる道のりだった。

 正面に見えるピーク上に集う登山者、そして山名標らしき柱が肉眼で見えてきて、今度こそ目指す間ノ岳が間近であることを確信する。

 間ノ岳が近づいてくると、岩稜は再び広がりを見せてくる。岩稜は一面に石屑で覆われているのでやや殺風景な風景となっていく。
この辺りの縦走路では一定の間隔を置いてケルンが設置されており、悪天候の際にはルートを見失いやすいことが想像される。
2年前は好天の見込み無しと判断して引き返した区間だが、あの時無理して進んでいれば心細い思いをしていたかもしれない。

 広大で緩やかな岩稜を登り詰めると、ようやく待望の間ノ岳山頂に到着だ!








 8:27 間ノ岳山頂(3,189.5m)到着  深田氏の「日本百名山」によると、かつてはこの山に農鳥の名が付いていたのではとの考察がある。

 遂に辿り着いた間ノ岳山頂・・。
 山頂からの周囲の南アルプスの絶景にただただ圧倒される。
感動が胸に迫るものがあったが、効率良く撮影を済ませていくことだけは抜かりない。

 非常に広大な台地の北端が実質的な間ノ岳山頂として扱われており、厳密な最高所は意外にもそれほど広くない。
山頂では山名標と三角点が心地良い達成感を演出してくれる。
なお北岳が日本第2位の標高であるのに対し間ノ岳は4位。(3位は奥穂、5位は槍)
アルプス山行を始めて4年になるが、これで上位5位の山々は富士山以外は全て登ったことになる。

 自分が山頂滞在中の間にも、北岳方面から後続の登山者が多く登られてくる。
撮影スポットはなるべく早く空けたうえで、ザックを下ろして休憩をとっておく。








居並ぶ南アルプスの山々。甲斐駒が初めて全貌を現してピラミダルな姿を魅せてくれた。  間ノ岳から更に南へ続く山々を見通す。いずれ深南部まで足を伸ばしていきたい。

 正面にはだいぶ遠くなった北岳が貫録十分。中白根山は手前でも控えめに見える。
北岳から間ノ岳へ続く稜線歩きは本当に最高の道のりだった!

 そして奥には甲斐駒がようやく全貌を見せてくれた。本当に白いピラミッドのような姿で強く惹き付けられる。
深田久弥氏が日本十名山を選べと言われても甲斐駒は外さないとまで書いている。
自分としても近いうちに登りたい山リストの上位に常にあり、初めて直にその姿が見えて深い感銘を受けたのは言うまでもない。
甲斐駒に登るとすれば、やはり表参道である黒戸尾根をぜひ直登してみたいと強く思う。

 南方に目を転ずると、本当に茫洋とした果てしの無いといった風な間ノ岳山頂だった。
他よりは近いけどまだけっこう距離感のある農鳥、西農鳥岳。
まだかなり遠くに塩見岳。漆黒の鉄兜の形容は的を得ていると納得。
塩見へも出来れば仙塩尾根を縦走して辿り着きたい。
遥か彼方には荒川三山らしき山々が控えているが、自分はまだ深南部まで概要を掴み切れていない。
南アルプスの懐の深さも感じられる絶景だった。








遂に農鳥小屋へ向かう時が来た。 広大な山頂を横切り、富士山とケルンを目印に農鳥方面へ向かう 

 掴みどころのないくらい広々としていて、好天の下で本当に最高に居心地の良かった間ノ岳山頂だった。
大きな岩の上でちょっと昼寝でもしたいと思わせられるところだったが、北東方向から小さな雲が時々上がってくるようになったのを見逃さなかった。
もし間ノ岳山頂でガスに巻かれるとルートを見失うリスクがあると実感する。それくらい特徴の無い平坦地が広がっているところだった。
それに何より、農鳥小屋には早く着かないと親父さんに怒られるという事情も念頭にあった。

 ということで間ノ岳山頂での必要以上の長居は避け、15分程度の滞在時間で出発することにした。




 8:43 間ノ岳山頂出発

 間ノ岳山頂から農鳥小屋へは下りメインで標準所要1時間。
途中での撮影時間を入れても、確実に昼前にはお楽しみ?の農鳥小屋に辿り着ける。
あとは行程を終えるまで、ガスが掛からないでほしいと祈るばかりだ。








富士山を正面に見て、ケルンを支点に南寄りに向きを変える 「農鳥小屋」の表示を見て、何故か襟を正すというか気が引き締まる思い。 

 間ノ岳山頂から殆ど高さを変えずに富士山を正面に見ながら進んでくる。
そしてケルンを過ぎると南寄りに向きを変えて、徐々にではあるが緩い下りの斜面になっていく。

 ルート沿いにはペンキのマーキングが豊富にあり、今日のような好天であれば迷うことなく辿れる。

 富士山は若干薄い雲が掛かっているようだったが、やはり南アルプスから見ると大きくて見応えがある。
人が多いのと単調な道のりが続くのでずっと気が進まなかったが、やはり富士山には機をみて登っておかなくてはいけないだろう。



 農鳥小屋へ下るのを体現する指導標を過ぎると、平坦な間ノ岳山頂から一転して大きく下る大斜面へ入っていく。








農鳥小屋へ続く壮大な間ノ岳南山腹  ノウトリとカタカナで書くと何故かおどろおどろしく感じるのは自分だけではないだろう。

 非常に広大な山頂をようやく抜けると、農鳥小屋が遥か眼下ながら遂に視界に入ってくる!
山と高原地図などで見ていたイメージよりもずっと距離感があってまた驚くことになった。
そして明日早朝の歩き始めにいきなり激登りをしなければならない西農鳥岳への標高差もはっきりと伝わってくる。
この壮大な光景が広がる農鳥小屋への道のりだが、間ノ岳山頂までと違って周囲から人けが無くなり、一気にローカル感が漂ってきた。
この変化は本当に対照的だった!北岳、間ノ岳の二峰の百名山に比べると、同じ白峰三山でも農鳥まで足を伸ばす人は少ないのだろうか。

 間ノ岳南山腹は滑りやすい岩屑のジグザグの下りが続く。
気温が上がってきてだいぶ暑くなってきたが、集中力を切らさないように丁寧に足を運んでいく。

 この写真を撮影していたところを後方から降りてこられた単独の若い女性の登山者に声を掛けられた。
なんと兵庫北部から来られていて、もしかしたら地元のスキー場で何度となくお会いしていたかもしれない方だった。
本当にいろんなところで繋がっていて、山とスキーの世界は意外とリンクしているのかも。
少しお話ししてみると(三脚が無いので)自分が写った写真が少ないということだったので、
お手持ちのカメラをお借りして農鳥岳をバックに撮影させていただいた。
自分が撮った写真が白峰三山の良い記念になれば嬉しいです。

 女性登山者さんは北岳山荘を拠点に農鳥まで軽装でピストン中とのことで軽やかに下っていかれた。
自分は対照的にゆっくりとしたペースで下りを再開する。








延々とガラ場の続く農鳥への岩稜   9:25 2,948m標高点辺りの平坦地で小休止をとる。背後には大斜面のジグザグを団体さんが降りてくるのが見える。

 下るにしたがって次第に周囲の地形が複雑になってきて、遂には大きな二重山稜になった。
所々ハイマツが点在する以外はガラ場が際限なく広がり、ややもすれば殺風景ともいえそうな岩稜だった。
この辺りでは偶然にも自分の前後に人影が消え、南アルプス本来の静寂さと清浄な自然の居心地の良さを感じた。








農鳥小屋も見えてからが遠い存在だった。   

 間ノ岳山頂からだいぶ歩いた感があったが、農鳥小屋はなかなか遠い。
(自分が撮影に時間を掛けていたことも大いに影響していたのは間違いないが)

 広大な岩屑の岩稜は歩いても歩いても果てが無いように延々と続く。
もちろん初踏破の岩稜で退屈しているわけではないけど、やや変化に乏しいことが長く感じさせたのだろうか。
本当に似たような光景が続くので、ここは視界不良の時にはあまり足を踏み入れたくないところだ。








 9:46 三国平分岐(2,780m+)  この分岐まで来れば待望の農鳥小屋まであと少し! 

 間ノ岳から下りに下って、ようやく農鳥への最低コルといえそうな三国平への分岐に差し掛かった。
行く手には農鳥から西農鳥の稜線が一段と高くなり、農鳥小屋はもちろんのこと、横には緑のテントが一つだけ張られているのが見える。
昨日の肩ノ小屋と違って今日はまだガラガラなので、自分の好きなところにテントを張れそうだ。

 縦走路は起伏の大きい主稜線を避けて東側斜面に付けられている。
主稜線上にある農鳥小屋へは最後に登って辿り着く格好となった。








10:05 農鳥小屋(2,800m+)到着  

 ようやく今日の行程の終点である農鳥小屋に到着した!
3日間の中で最も楽な正味6時間ほどの行程とはいえ、やはり歩き応えは充分にあった。

 ところで前述のとおり、農鳥小屋と親父さんは南アルプスでは非常に有名な存在で、
3日間の行程の中である意味ここを訪れることを一番楽しみにしていたといえば言い過ぎ?だろうか。

 そして、自分が到着した直後、小屋の間からネットで事前にお顔まで確認していた親父さんご本人がいきなり出てこられた!!
ご挨拶と手始めのコミュニケーションを兼ねてテント泊の申込をしたいことを伝えると、「ウケツケ」の棟でやってるよと飄々と答えていただいた。
もちろん遅いと怒られることもなく、かといって早く着いたことを褒めてもくれなくて、あっさりと会話終了・・。
期待と不安で少しドキドキしていたが、意外にも普通に対応いただいてちょっと拍子抜けな気が・・。(^^; 
でも必要以上のことを口にしないところに昔気質の山男らしさを感じた。

 ウケツケ棟へ向かう自分の横では、少し遅れて到着されたばかりの登山者(通過される方だったよう)に対して親父さんは間髪入れず誘導されていた。
「縦走路はこっち」とドラム缶の左側を示して。正面の通路を通ってウケツケ棟へ向かえるのはここでの小屋泊、テント泊の登山者のみに限られるのでご注意を。
でも分かりやすく交通整理する指導標でもあれば誘導の手間が省けるような気もするけど、ネットで見かけたとおりの光景が目の前でいきなり展開して大いに感動を覚えた。

 ウケツケ棟では自分より少し若いくらいの男性が居られ、テント泊受付を済ませ施設利用等の必要事項をご説明いただいた。
そして必要な手続きを終えてから、まずは間ノ岳が見えている間に農鳥小屋からの光景を撮影しておこうと、小屋の路地を抜けて見通しの良いところに出る。
出たところは先ほど親父さんが指示されていた縦走路の途中だった。
するとすぐ近くのドラム缶にちょうど双眼鏡を持った親父さんが座られるところを見た。自分の目は親父さんに釘付けとなった。








記念写真を撮影した農鳥小屋の看板。後方のドラム缶では双眼鏡で間ノ岳を下ってくる登山者を観察?されている親父さんが(白い服)。 次第にガスに巻かれる気配が出てきた間ノ岳。親父さんは双眼鏡でひたすら間ノ岳南斜面を見続けられていた。

 ネットで事前に下調べしたとおりの光景を続けざまに見て、再び自分は本当に感動してしまった。
登山者に対する物言いの関係で親父さんには色々な声があることは承知しているが、
登山者の安全を強く気に懸けておられるという点は間違いないように思う。

 自分も間ノ岳のリスクについて前述したが、この山は一たび視界が無くなるとルートを見失う可能性がある。
間ノ岳を越えて農鳥小屋を利用(テン泊も含む)される場合は、親父さんに怒られないためにも、
山の鉄則を守って早発早着の行程を組むことが安全登山に大いに繋がるのではないだろうか。

 自分は双眼鏡で観られていたのかどうかちょっと気になったが、親父さんの大事な仕事?の邪魔をすると怒られそうでわざわざ聞きに行く勇気を持てなかった。




 一しきり撮影も済ませ、ウケツケで説明を受けたテン場へ向かう。
テン場は農鳥小屋の北側と南側(こちらのほうが広いし区画が複数ある。またトイレ棟にも近いのでお薦めとのこと)にあって、南側のほうへ向かう。
主稜線の縦走路より少しばかり下った東斜面にテン場が広がっている。








農鳥小屋・キャンプ指定地にて。設営を終える頃には本格的にガスが上がってきた。  南側には西農鳥岳が近く、稜線上を登山者が動いているのが時々見えた。後ろの緑のテントは人けがなく長期間張りっぱなし?? 

 一見するだけでは分からないが、どの区画も程度の差はあるがやや斜めになっている。
出来るだけ水平に近いところという点に絞って選んだが、結果的に好きなところを選べたわけではないのがちょっと残念だった。

 自分がテントを張った時には誰も居なかったが、夕刻にはほぼ全ての区画が埋まった状態に。
この点においてもやはり農鳥小屋は早着することが重要だった。

 周辺はガスっていても、何故か農鳥小屋周辺だけは長い時間晴れていた。
おかげで結露でびしょ濡れになっていたテントはもちろん、シュラフや装備品なども全て完璧に乾かせた。
この日、テントの屋根で物を乾かすと、直射日光を遮ってテント内がだいぶ涼しくなるということにようやく気付いた。(^^;

 テント周りのやるべきことをやってから、農鳥小屋へ買い出し等の用事も兼ねて散策に出掛けた。




 テン場から見える水色屋根の小屋の向こうにあるのがトイレ棟で、どうにか言葉を選ぶとすると、
かつての大らかだった時代そのものの造りがそのまま残っている。使用する場合はちょっと心の準備?が要る。








農鳥小屋南端付近にある売店棟。コーラやお茶、農鳥のバッジ等を購入すると同時に壁に掛けられたコースタイム表に吸い寄せられる  また感銘を受けることになった、年季の入った手書きのコースタイム表と親父さんのメッセージ 

 <売店に御用の方は管理人を呼んで下さい。受付辺りにいます>

 自分の場合は先に買い物中の他の登山者の後ろに並んだので、ここでも直接親父さんに対応いただいた。
親父さんは本当に朴訥とした口調でマイペース。今日が初対面のはずなのに懐かしい思いがしたのは何故だろうか。

 買物後に誰の邪魔にもならないのを待って、しゃがみ込んでタイムテーブルと親父さんのメッセージを併せて読み込む。
明日の3日目の行程で奈良田まで下るが、先に結果を書くと自分の場合は10時間ほど掛かることとなる。
ということで、文句なしにのろまの人(のんき)に該当することになる。(^^;









お知らせ!!

 
山小屋到着の常識的時間は15:00(9,10月)〜16:00(7,8月)と心得て行動して下さい!!
これより遅くなると思われる時間の出発は控えて下さい
君達の安全登山をいのります。 おやじ





 10時頃に到着した自分に対して、親父さんは何も言うことが無かったのが納得出来た気がする。
農鳥小屋の集落?中央付近。左側がウケツケ棟で右側が管理棟兼台所?正面奥が宿泊棟でけっこう広々している。  親父さんの指定席?のドラム缶。通過者は左側の縦走路を歩くこと。

 ここでカメラを構えていると建物から出ようとされた親父さんが気付かれ、撮影が終わるのを自分が声を掛ける間もなく待っていただいた。(右の建物入口に親父さんの腕だけが写っている)
自分としては親父さんが写真に入ってくれていたほうが良かったのだけれど・・。

 オシャレであか抜けた北アルプスなどの山小屋と違って、農鳥小屋は一昔前の山小屋といった風情を強く感じられる。
このマイナー感は意外に自分に波長が合うかもしれない。
今日の場合は夏山シーズンのピークの週末ということで、小屋の宿泊者もけっこう居られたよう。
北岳、間ノ岳を周回される登山者より数は減るものの、白峰三山縦走を志す登山者は自分も含めてもちろん一定数は居る。
北岳山荘から大門沢小屋間の長大な区間において、農鳥小屋の存在意義は計り知れないほど大きい。








午後にはすっかり濃いガスが間近に上がり、朝にはあれだけ好天だった間ノ岳は全く見えなくなった。のんびり雲を見上げるのがたまらなく心地良い時間だった。  

 農鳥小屋から往復30分のところに水場があって、テン場の端には水場へ向かう登山道が始まっている。
意外に多くの方が入れ代わり立ち代わり水場へ向かわれていたが、戻ってこられた時には皆さん一様にかなりお疲れでした。
自分は明日の体力を温存するほうを優先して、小屋で蓄えている天水を購入するほうを選んだ。








午後遅くなってすっかりガスガスの農鳥小屋 あれだけ空いていたテン場だったが、夕刻には小振りながらも立派なテント村となった。 

 テントで一眠りしていると、いつしか周囲はガスガスになっていた。

 夏山は午後には雲に覆われるのが普通だし、ガスガスのほうがテントで快適に過ごせるのでのんびりするには悪くない。
昨日の肩ノ小屋ではゆっくり出来なかった分、ここでは昼寝もしっかり出来たし心身共に休ませることが出来た。
テン場では本当に時間がたっぷりとあるので、いろいろなことを思索したり、もちろん明日の行程や地形図の観察も念入りに行う。








2日目は赤飯と味噌汁と少しだけ行動食を付け足した。 2日目は雲に遮られて夕日は無し。早く休みなさいということだろうか。

 10時に農鳥小屋に到着してから約8時間余りのんびりして、明日への英気を大いに養った。
最終3日目は西農鳥への激登りを皮切りにして、奈良田まで標高差2,200mもの大きな下りが控えている。
昨年に膝の靭帯を負傷した笠ヶ岳・クリヤ谷コースをも上回る長大な行程であり、最終日までそれを残すのが白峰三山縦走のグレードを上げていると考える。
明日大きな達成感を持って気持ち良く奈良田へ辿り着けるよう、安全に下山出来るように気合を入れて掛かりたい。
まずは西農鳥付近の岩稜は夜間に通過するので、この辺りは特に集中して地形図を読み込んでおいた。

 長大な3日目の行程なので、やはり農鳥岳辺りで日の出を迎えたいと考えた。
農鳥小屋からの標準所要時間は西農鳥まで50分、そこから農鳥まで更に40分で合計1時間30分。
日の出時刻は5時頃なので、のろまでのんきな自分のペースを考えると、3:00に出発出来れば余裕を持てるだろう。
起床時刻は1:00として、18:30頃には早々に就寝した。








行程断面図です




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