「白峰三山縦走・農鳥小屋〜奈良田」 2016年 8月 7日(日) |
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国土地理院地形図 : 25000分の1 「間ノ岳」、「夜叉神峠」 1:10頃 起床 テントから顔を出してみると、周辺が霧掛かっていて風が比較的強く吹いている。おいおい!? 昨夕からの雲がまだ取れていないのかと心配したが、出発準備を終える頃には完全に霧は晴れた! 今日は万全の天候をもって奈良田への長丁場を歩くことが出来ると確信した。 |
行程概要 ![]() |
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3:15 農鳥小屋・キャンプ指定地出発 | 全線において指導標マーキングは豊富です。但し大門沢下降点の北側斜面は視界不良時はルートミスに注意。 また大門沢沿いにおいて沢を渡る箇所が多いので、増水時には要注意と思います。 |
出発直前に縦走路からテント場を振り返ると、遥か彼方に甲府の夜景※が見えていていきなり感動する! ※ 山と高原地図による 武田信玄所縁の甲府は以前から訪れたい街で、夜景ではあってもこの時に初めて直に目にしたのだった。 昨日、しっかりと観察しておいた西農鳥岳への急登をヘッドライトの灯りを頼りに登り始める。 この時既に急登を登り終えそうなところに先行者の灯りもあった。 また自分より少し遅れて準備中だった4、5人パーティーも下方から出発される。 昨日、農鳥小屋の親父さんは早着しても褒めてくれなかったが、今日も早発で安全登山を期したい。 西農鳥岳へは稜線の西側を巻くようにして乗り上げる。 |
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4:14 西農鳥岳山頂(3,051m)到着 | |
前述の4,5人パーティーの方々とほぼ同時に西農鳥岳山頂に到着。 周囲の景観はまだ暗くてよく見えなかったが、農鳥岳で日の出を迎えるように出発したのだから仕方がない。 西農鳥岳山頂(3,051m)は農鳥岳より標高が約25m高いのに主峰扱いされていないことを不思議に思っていたが、 山頂がとにかく狭くてミニピークといっても良いくらい。山の風格の点において主峰に遅れをとっていると考えられたのだろうか。 山頂では冷たい風が吹き付けていて、出発時から寒くて着ていたダウンが大活躍だった。 農鳥小屋からの急登を経てきたので、狭い山頂で行動食をつまんで小休止をとっていく。 |
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4:26 西農鳥岳山頂出発 | |
西農鳥岳山頂で滞在中に若干東空が明るくなってきたが、まだまだヘッドライトが必要な暗さだった。 肉眼ではこの写真よりも、もう少し暗く見えていたかもしれない。 自分が小休止中に4、5人パーティーの方々が先行され、すぐ東のミニピークの山腹を巻いている様子が見える。 そして、ミニピークの右奥に控える南北に長い平らなピークが目指す農鳥岳山頂だ。 前もって地形図をよく観察していたことで、シルエットしか見えなくてもすぐにあそこが農鳥岳山頂と認識出来た。 ちょうど奥に見える富士山が農鳥の帽子のように重なって見えていたのが印象的だった。 富士山は昨日よりクリアに見えていて感動的だった。 |
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長く感じるガレた山腹道 | |
最初のミニピークを巻いてみると、眼前にテーブル状の農鳥岳がはっきりとその姿を現す。 昨日、間ノ岳など北側から眺めた時と全く雰囲気の異なる姿だった。 西農鳥、農鳥間は殆どずっと西側山腹を巻いていく。 断続的に続く小刻みなアップダウン、そしてザレて滑りやすい箇所も多い。 農鳥岳も見え始めてからなかなか近づいてこないが焦らず慎重に脚を進めていく。 |
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すぐ眼前には巨大な農鳥岳山頂が迫ってくる | |
幾度かミニピークの山裾を巻いていくと、ようやく遮るものなく至近距離に農鳥岳が迫ってくる。 手前のコルからは山頂まで一直線に伸びる山腹道が見え、ちょうど先行のパーティーが山頂の手前に差し掛かっていた。 あれが農鳥への最後の登りであり、今回の縦走における最後のまとまった登りとなるはずだ。 農鳥岳山頂西側を登っている間に日の出を迎え、西側に見える塩見はモルゲンロートに映えていた。 |
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5:12 農鳥岳山頂(3,025.9m)到着 | |
最後の山腹道を喘いで登りきり、ようやく待望の農鳥岳山頂に辿り着いた!! 微妙に日の出には間に合わなかったが、農鳥岳山頂を含めて越えてきた白峰三山は揃ってモルゲンロートで輝いていた。 ただただ至福の気分で暫し眺めていた。 かなり遠くなった北岳は天を突くように更に鋭く見える。対照的に間ノ岳は相変わらずあくまでも包容力のあるどっしりとした姿だ。 山腹道から乗り上げて辿り着いた農鳥岳山頂だが、この三角点があるのは南北に細長いピークの南端。 出来れば北端まで行って遮るものなく北岳と間ノ岳を眺めたかったが、農鳥岳山頂はあまりに広大だった。 先に山頂に居られたパーティーの方々、他数名の登山者が全て山頂を後にされ、 途中からは農鳥岳山頂に居るのは自分一人だけになった。 白峰三山で最後のピークであり、そしてこの後まもなく稜線を外れることもあって、この静かな農鳥岳山頂は本当に離れ難かった。 出来るだけ長く農鳥岳山頂に留まっていくことにした。 まずはザックの中で重りになりっぱなしの望遠レンズを取り出し、農鳥からの絶景を出来るだけたくさん切り取っていこう。 |
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いずれ全て踏破したくなる南アルプスの名峰が揃う | 大きな谷を隔てて塩見岳が強く誘ってくる |
南アルプスはまだ白峰三山しか歩いていない自分にとって、現地で同定出来る山のほうが例外的だった。 荒川三山方面の山々は帰宅後にカシミールで確認。自分が未踏の南方の山々の中で現地で山名が分かったのは塩見ぐらいだった。 眺めれば眺めるほど南アルプスをよりくまなく歩きたくなってくるのは自然の流れと思う。 |
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朝の斜光に照らされる間ノ岳と北岳。白峰三山だけでも南アの懐の深さは充分に感じられた。 | 大きく鮮明に富士山が雲海に浮かぶ。 |
全く姿と性格が異なる二つの百名山。 農鳥は200名山となっているが、この眺めだけでも百に入れるに値する絶景と思う。 混雑がイヤで後回しにし続けている富士山にも強く誘われるのも南アルプスならでは。 今日、富士山頂に居られた登山者は最高の絶景を眺めているのではないだろうか。 |
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農鳥以南の南アルプスの山々を眺める | |
時間の許す限り南アルプスの山々をただただ眺めて、目に焼き付けておいた。 山頂滞在中にすっかり日が高くなり、気付けば南アルプスの濃い緑が鮮やかになっていた。 いつまでも居てもキリがないので、重い腰を上げて出発することにする。 出発までの随分長い間、農鳥岳山頂は貸し切りとなっていた。 北岳と間ノ岳とは登山者の数が明らかに違うことを実感する時間だった。 5:50 農鳥岳山頂出発 山頂からは一旦は東側山腹に降りて、山頂直下ですぐに稜線に戻っていく。 そこからは再び感動的な絶景が待っていた。 |
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白峰南嶺へ続く白峰三山の主稜線 | |
農鳥岳山頂から少しだけ下ったところで、これから向かっていく南側の光景が広がった! 先ほどまで居た農鳥岳山頂では折り重なる岩に遮られた格好で見過ごしていたのだった。 この後まもなく縦走路は一旦稜線を外れることになるが、稜線自体は枝分かれして やや高度を下げつつも見える範囲では広河内を経て白峰南嶺まで蛇行しつつ続いていく。 そして大門沢下降点に立つ有名な指導標が肉眼で見えるようになってきた。 |
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稜線東側斜面を降下中。ハイマツ帯が広がって、波打つように二重山稜が形成されている。 | 物音一つなく、時が止まったかのような空間だった。 |
遂に小太郎尾根分岐から派生を繰り返しつつも辿ってきた稜線を外し、広大な東斜面を斜めに下っていく。 登山道はうねりながらもただひたすら大門沢下降点を目指していた。 途中からは二重山稜のようになり、周囲にはクレーターのような窪地が点在する。 稜線を外れて東斜面に降りてからは風も全く無くなったことと、周囲は変わらず人けもないので完全に静寂の世界となった。 緩やかに下っていくにつれて、大門沢下降点の黄色い指導標がはっきりと見えてくる。 そしてゆく手には広河内岳以南の白峰南嶺の緑濃い稜線にまた強く惹き付けられる。 この後、下降点から大下りを始めるのが惜しいと感じられる光景だった。 |
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6:31 大門沢下降点(2,820m+)到着 | 大門沢を明確に指し示し、下降点に立ち続ける鉄骨造りの指導標 |
所々にハイマツが点在する以外やや殺風景な砂礫地の大門沢下降点に到着。 眼前には本当に富士山が大きく鮮やかに見えるが、それに加えて先ほどから目立っていた指導標に目を吸い寄せられる。 指導標の銘板には右記のように記されていた。 周辺はなだらかで特徴に乏しい地形になっており、積雪期に視界を失い厳しい状況に陥ったことが伺える。 半世紀近く前の遭難があったことで、大門沢下降点が明確になったことに心を打たれる。 大下り前に下降点にて小休止中、単独男性が東斜面を降りてこられた。 この方も自分と同じく奈良田へ下る行程中だったが、その前に南側の広河内岳へ立ち寄っていかれるという。 出来れば自分も広河内岳まで寄って白峰南嶺を近くから眺めたかったが、自分の行動時間を考えると またの機会に置いておくほうが賢明と判断した。 暫しの会話の後、男性は大門沢下降点に大きなザックをデポして広河内岳へ軽装で向かわれた。 |
木村 将也 二十五才 昭和四十三年一月四日 吹雪のため下降点を確認し得ず此の地にビバークしこれより下方縦走路にて力つき永眠す 父 木村長三 母 木村かつ 千葉県銚子市 銀嶺山岳会 昭和四十三年七月二十八日建立 |
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6:50 大門沢下降点より長大な下降を開始 | |
男性が広河内岳へ向かわれてまもなく、自分も大門沢下降点を後にして本格的な下りを始める。 当面の目標となる大門沢小屋へは標準所要時間2時間30分。大門沢下降点からは大門沢小屋はおろか下界の建物は何一つ見えなかった。 大門沢小屋へ続くとみられる沢はまだまだ遥か眼下の雲より下に小さく見えている。 長い下りを実感させられるには充分な光景だった。 大門沢下降点からはハイマツ帯の中をジグザグに降りていく。 森林限界の高い南アルプスでも、まだしばらくは絶景に囲まれながら下りていけそうだ。 |
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大唐松尾根を見やりつつ、ハイマツ帯の中を斜行していく。 | 次第にハイマツに変わって低木が増えていく。 |
東斜面全面に広がるハイマツの原は本当に目に鮮やかだった。 北に連なる大唐松尾根、谷間に漂っている雲がまだまだ高山帯に居ることを印象付けてくれる。 これから標高を下げていくことが何とも寂しく思えてくる光景が続く。 富士山の方向に下るようになると、補助ロープも張られたやや急な岩場も出てくる。 この辺りからハイマツだけではなく、次第に背の低い灌木帯へと植生が変化していく。 |
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7:17 小広い平坦地 | |
あっという間に森林限界を下回って、小さなカールのような谷間に降り立つ。 数段に平坦地が連なっていて、明らかにテントを張った痕跡が見られる。 ここにテントを張れば風も避けられるし、稜線にも比較的近い。 自分の行動時間から考えると、奈良田からここまでで1日目が終わるくらい掛かるだろう。 途中の大門沢小屋で充分な水を補給させてもらって、ここで一泊してから白峰南嶺へなどといつの日かの山行を考えたりした。 日陰を選んで小休止をとっていく。 この辺りから登り中の登山者の方々と時々すれ違うようになってくる。 広河原からとは比べものにならない長大な登りを耐えなくてはいけないが、自分の経験の中では笠新道を登った時のしんどさが近いのではないだろうか。 小広い平坦地からまもなく、細い涸れ沢を渡って、南斜面の山腹道へと続いていく。 |
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7:29 2,650m地点 | |
下っている斜面が南向きになったことと、風通しが弱くなってきたことで次第に暑さを感じるようになってきた。 先ほどから漂っていた雲と同じ高さになってきて、大門沢下降点から体感的にだいぶ下ってきたかなと感じてきた頃に2,650mの指導標が。 後で判ることだがこの指導標はこれまで他の山で観てきたように200m毎だけではなく、不定期の間隔で思い出したように現れる。 いずれにしても奈良田までの長大な下りにおいて、ペース配分や現在地把握などの重要な役割を果たしてくれることは間違いない。 ということで大下りを始めてからまだ170mしか下っておらず、大門沢小屋までの標高差は940m、奈良田までは1,810m…。 |
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深い樹林帯へ入る頃から急坂の連続に | 7:57 2,450m地点。南アルプスらしい美しい樹林帯が続く。 |
次第に立派な樹林帯へ入り、周囲の景観は見えなくなるが代わりに木陰が涼しくて大いに助けられた。 この頃から段差の大きな急坂が連続するようになり、これまで以上に丁寧に足を運んでいく。 地形図を見ても2,600〜2,300mの辺りの等高線が最も混んでいる。 この辺りですれ違った登り中の方々は一様に辛そうで、いずれここを登りたい自分も挑戦する際には心の準備が必要だ。 この連続する急降下の途中で2,450m地点を通過。 心残りだった稜線は遥か高くに遠ざかる代わりに、大門沢小屋までの標高差を指折り数えていくようになる。 |
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8:12 2,370m地点到着 | |
急降下の途中で2,370m地点に差し掛かる。 テント二張りくらいの平坦地があって、ほっと一息付けるところだ。 まだまだ先は長いので、機会を逃さずにザックを下ろして小休止を入れていく。 細かいことだけどここの指導標は農鳥岳の部分が欠けているのが寂しい。 8:20 2,370m地点出発 急坂の区間の途中で、大門沢下降点から広河内岳へ立ち寄られていた単独男性に追い付かれる。 撮影に時間を掛けている自分のペースが遅いこともあるが、この単独の方は本当に健脚であられた。 広河内岳山頂では早くも上がってきた雲によって、一部の方角しか眺めることは出来なかったという。 しばらくお話ししながら一緒に下っていったが、すぐに追い付けなくなって再び見送る格好となった。 |
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まだまだ続く長い急坂。遂にはハシゴまで現れる。 | |
長く続く急坂なので集中力を保つためには、途中の休憩が本当に大事と思う下りとなった。 掛け替えられたばかりと思われる新しいハシゴも下った。 2年続けて下りでケガをするわけにはいかないと、常に油断せずに行程を進めていった。 |
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急坂の区間は過ぎて、美しい樹林帯を楽しめるゆとりが出てくる。 | 8:40 2,200m地点 |
急坂もいつしか緩んできて、美しい樹林帯を楽しみつつ歩くことが出来るようになってくる。 上空にはやや多く雲が浮かんでいるようだったが、まだまだ青空が勝って木漏れ日が美しかった。 2,200m地点を過ぎる頃には待望の水音が聞こえてくるようになる。 目指す大門沢小屋が少しづつ近づいてきていることを感じて元気付けられる。 |
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8:45 沢沿いに出てくる | 大門沢上流部。上空は雲に遮られて様子が伺えない。 |
登山道はようやく沢に沿う細い尾根上を下るようになる。 小尾根の北側は絶壁になっているため、平行して下っている大門沢上流部をよく見渡せる。 見上げるばかりの急峻な沢筋をまだ細い流れが下っている光景が迫力あった。 小尾根上は砂交じりの下りで、スリップに気を付けながら慎重に降りていく。 日当たりが良いところはもう下界のような暑さで、今朝までダウンを着ていたことがウソのような温度変化だった。 このまま沢に近づいていくのかと思ったが、沢からは一定の高さを保ちつつ右岸を下っていく。 大雨の後にはこの大門沢上流も光景が一変するのだろう。 |
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再び樹林帯に戻ってほっとさせられる。 | 9:07 2,000m地点 |
一旦、日当たりの良いところに出たことで木陰の有難さを実感させられる。 標高を下げてきたことで周囲の森は一層深くなった。2,000mまで降りてきたことで、大門沢小屋までの道のりも先が見えてきた。 |
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9:18 最初の渡渉 | 渡渉地点からすぐに1,945m地点 |
今日初めての渡渉箇所に差し掛かった。丸太橋の残骸が残っているが、ここはロープを手すり代わりにして簡単に渡れた。 久しぶりに水量豊富な水に触れ、顔を洗ったり頭から水を被った。リフレッシュさせられて生き返った思いだった。 渡渉箇所からすぐに1,945mの指導標を通過。 大門沢小屋まであと200mと少し。 |
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9:27 2箇所目は丸太橋が生きている | 再び大門沢沿いに出ると、より周囲の緑が深まっていた。 |
再び右手から流れてくる沢を渡っていく。ここは丸太橋が健在で、足を滑らせないように慎重に渡っていく。 透き通った南アルプスの天然水に心洗われる。 山と高原地図を眺めている時は想像出来なかったが、登山道は大門沢に着かず離れず。 一定の距離を保ちつつ下っていくという感じだった。 地形図では大門沢小屋付近より上流には水線が描かれていないが、もう既に轟音を響かせる立派な沢になっている。 つい最近まで梅雨の名残で雨が続いたせいもあったかもしれない。 |
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この道標のすぐ近くに大門沢小屋がある | |
再び静かで比較的緩やかな森を下るようになると、大門沢小屋が木々の合間の下方に遂に見えてきた! この指導標を見送って一旦は奈良田へ向かう登山道から離れると、ようやく待望の大門沢小屋に到着だ。 |
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9:49 大門沢小屋(1,710m+)到着 | |
深い樹林帯の谷間にひっそりと建っているといった感じの山小屋だった。 自分が到着後に大門沢小屋の御主人さんが出てこられてご挨拶を交わした。 ここでは昨日、買い漏らしていた間ノ岳のバッジを購入。そして沢沿いの山小屋の特権である無料の水を有難く補給させて頂いた。 まだスポーツ飲料のパウダーを残していたので、大門沢小屋の水でそちらも精製して奈良田までの後半戦に備える。 自分が到着後に数人の登山者の方も続々と下ってこられ、俄かに小屋前の広場は賑やかに。 一部の方々はそうめんを注文されていて、自分も大いに食欲をそそられた。 でもあまりここで長居すると後の行程に響くと考え、小休止は程々にしておくことにする。 |
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大門沢小屋・キャンプ指定地 | 雰囲気あるロケーションが素晴らしい大門沢小屋 |
出発前に小屋の東側にあるテン場に立ち寄ってみた。平らで東側の景観が良く、なかなか居心地良さそう。 今は暑いけど西日は稜線のおかげで早くに陰るのではないだろうか。なお小屋の西側の森の中にもテントを張れるスペースがあった。 大門沢小屋は通過してしまうのは勿体ないと思うところだった。 仮に4日間の行程であればここでもテントをぜひ張りたいが・・。 10:16 大門沢小屋出発 長居するつもりはなかったものの、気付けば約30分の滞在時間が過ぎていた。 奈良田まで残る所要時間は約3時間ほど。軽くウォーミングアップしてから出発する。 |
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10:21 長い丸太橋で大門沢左岸へ | パイプが組まれた桟道 |
大門沢小屋からしばらくは右岸沿いを下っていくが、まもなくこの長い丸太橋で左岸へ渡る。 丸太の上はけっこう高度感があるが、すっかり立派な流れになっている大門沢の上を慎重に渡っていく。 左岸に入っても変わらず大門沢から付かず離れずに下っていく。 一部では蜀の桟道のような回廊を渡るところもあった。 この辺りではあらゆるところで大門沢の水辺に出られるので、好きな時に頭から水を被ったりして涼をとることが出来る。 |
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10:40 再び長い丸太橋で大門沢右岸へ | 小川と登山道が一体化。天然のクーラーだった♪ |
しばらく歩いていくと、また同じような長さの丸太橋で右岸へ渡り返す。 澄んだ大門沢は見下ろしているだけで涼感抜群だった。 この先の下りでは終始、大門沢右岸側を下っていくことになる。 一帯の水量はかなり豊富なようで、登山道が川と化しているところもあった。 歩いていてたいへん涼しくて快適だったのは言うまでもない。 |
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次第に大門沢から離れていき、高度を稼ぐように地味な登り返しが続いていく。 | |
あれだけ涼感たっぷりだった登山道がウソのように、次第に山腹道となって沢から高く巻いていくようになる。 この辺りでは地味な短い登りが断続的に続き、風が殆ど通らなかったので一転して汗が噴き出してくる。 |
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11:19 小尾根を越える峠(1,500m)に到着 | |
大門沢小屋を出発してちょうど1時間で小尾根を越える峠に乗り上げる。 ここでは涼風が通り抜けていて快適だった。地味な登り返しで疲れてきたこともあって、迷わずザックを下ろして小休止をとる。 ここでようやく標高1,500m。氷ノ山とほぼ同じ高さまで下ってきたことで、奈良田までの長大な下りもだいぶ行程が進んできたと実感する。 11:30 峠を出発 |
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峠より南斜面の美しい樹林帯 | |
峠からは急な南斜面を下っていくが、圏谷状の谷間には美しい樹林帯が広がっていた。 下り始めて間もないというのに、眼前に広がる光景に思わず足を止めてしまう。 約100m余り下ってくると、殆ど傾斜の無い平らな森が広がる一帯に降り立つ。 |
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奈良田まであと2時間30分 | 殆ど平坦な森を進んでいく |
圏谷状の谷底部分は広大な森となっていて、平坦な区間はしばらく続く。 長大な行程の中で束の間のほっとするところだった。 |
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11:55 八丁坂にて激下り開始 | |
平坦な森から一転して、今度は八丁坂といわれる激下りが始まった。 疲れと暑さで集中力を切らさないよう、ここは慎重に通過したいところだ。 八丁坂で標高差100mほどを一挙に下げていく。 斜面をトラバース気味に南下していくうえに滑りやすい急坂が続いた。 |
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12:08 大古森沢を渡る(1,230m+) | |
八丁坂の下りが一段落すると、久しぶりの水音が聞こえてくる。 沢は西側から大門沢に合流してくる大古森沢で、ここもしっかり組まれた2箇所の丸太橋を渡る。 久しぶりの沢だったので、ここでもしっかりと顔を洗って涼をとっていった。 |
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再び沢沿いを高巻く | 下り着いたところは巨岩地帯 |
大古森沢を越えると大きな登り返しは無いが、再び沢からは高く離れた巻道を行くようになる。 もうだいぶ標高を下げてきたことで、日陰が多くてもけっこう暑さを感じるようになってきた。 でも山道を歩く区間も残り少なくなってきている。安全のためにも縦走の終盤をしっかりと味わって歩きたい。 緩やかに標高を下げてきて再び大門沢の水面が見えてくる頃、今度は計り知れない大きさの巨岩が鎮座しているのが目に飛び込んでくる。 場所が変わればご神体にでもなっていそうだが、南アルプスの森の中に静かに埋もれている。 巨岩帯を過ぎると殆ど平坦になり、前方には明るい日差しが降り注いでいる。 小古森沢との合流点に差し掛かったようだ。 |
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12:41 小古森沢を越える(1,140m+) | |
今日の行程の中で最後に涼をとる沢となった小古森沢。 ここには丸太橋もなく、歩きやすいところをジャブジャブと渡渉していく。 そして渡渉箇所から左側の大門沢の行く手に橋が見えているのに気付いた! 長かった大門沢の登山道もいよいよ終わりが近づいてきたようだ。 |
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12:48 高度感ある細い吊橋を渡る | |
小古森沢を渡渉して最後の森を抜けたところには細くて高度感ある吊り橋が掛かっていた。 よく揺れる吊り橋だったが自分は爽快に渡れた。 橋の対岸には早川水系発電所取水口をはじめ、久しぶりの人工物や建物が点在している。 下界に戻る時が近づいてきたと感じる。 |
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13:01 工事中のような一帯(本来2箇所目の吊り橋があったはずだが・・) | |
暫しの森歩きを経て、唐突に工事現場のような暑いところに出てきた。 自分の持っている山と高原地図(2013年版)では2つ目の吊り橋があるはずだったが、代わりに人工的に改変された地形の谷底に小さな橋があった。 下流側は巨大な堰堤が設けられていて、登山道は右岸側から堰堤を巻いていく。 余談だがリニア新幹線は南アルプスの広河内岳辺りから長野県側の伊那谷へ向けて貫通予定らしい。 この期に及んで一世一代の愚かなことを、と呆れるほかない。 自分はリニア新幹線が開通する頃はまだ生きてる可能性はあるが、南アルプスを貫くものになど乗りたくもない。 子孫に残すべきものを間違っていると言わざるを得ないだろう。 |
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13:09 森山橋 | |
堰堤の急な巻道を下ったところには、前述の細い吊橋からバージョンアップした立派な吊り橋が掛かっていた。 これが森山橋という名が付いている吊り橋だった。先ほど渡った吊り橋と違って殆ど揺れないので面白くなかった。 森山橋の下流側の河川敷にはなんと車が停まっていた。 遂に登山道が終わることを悟った光景だった。 |
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13:15 大門沢登山道入口 | |
森山橋を渡るとすぐに暑い林道に飛び出す。長かった大門沢登山道が遂に終わった。 これまで歩いてきた山側を振り返ると、渡ったばかりの森山橋と山深い南アルプスの光景が名残惜しかった。 あとは奈良田へ向けて林道歩きが残るのみだが、車に辿り着くまでにあと1時間近く掛かる。 もうだいぶ疲れを感じていたが、林道の途中で小刻みに立ち休憩を挟みつつ、ゆっくりと奈良田を目指していく。 でも地面の固い林道を登山靴で歩くのは本当に疲れる。 |
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林道歩きの途中で見かけた登山道マップ | |
地図というよりも概念図といったほうが適切かもしれないが、白峰三山縦走の余韻を味わうには充分だった。 ここから奈良田湖(バス停)まで40分。車のある駐車場はそれより北側なので、実際には少しだけ所要時間は短くなるはず。 一方、広河原まで17時間とある。 ヤマレコでは日帰りで白峰三山を歩いている山行記録も見かけるが、仮に軽装で臨むにしても自分には難しいと思う。 やはり最低でも2泊3日で歩いて、ゆとりを持ってじっくりと楽しむに値する山々と道中だったと振り返る。 |
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13:50 奈良田第一発電所・農鳥岳登山口(860m+) | |
林道を歩き始めてから約30分。前方に建物が見えるなと思ったら、見覚えのあるところに唐突に降り立った!! ここは奈良田から広河原へ向かうバスが通る南アルプス公園線のゲート前だった。 夜間はゲートが閉じているのは以前から知っていたが、昼間も常には閉じたままというのはこの時に初めて知った。 ゲート前には係の方が常駐されていて、しっかりと開閉を管理されておられるようだ。 入口が閉じられたトンネルを前にして、一昨日朝に混み混みの広河原行きバスに乗ってここを通ったことを感慨深く振り返った。 |
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広河内橋から最後に稜線を見送る | |
ゲート前に掛かる広河内橋からは遠い存在になった稜線が、雲に巻かれずにまだよく見えていた。 ここから稜線を見るのは2回目。 2年前に初めて南アルプスに来た時、利用した乗り合いタクシーがゲートが開くのを待っていた時に見上げたことをよく覚えている。 朝だけは稜線が見える好天だったが、結局は悪天候で白峰三山縦走は断念することとなる。 今回は踏破後の達成感を胸に眺めることが出来た。 稜線を見納めてから、舗装路をゆっくりと奈良田へ向かう。 バスやタクシーならばあっという間なのだが、疲れた脚には長く感じる車道歩きだった。 |
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14:09 奈良田橋 | |
奈良田橋を渡って早川の左岸へ。対岸には車を置いてある駐車場が遂に見えてきた! |
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14:15 奈良田駐車場(840m)到着! | |
農鳥小屋・キャンプ指定地を出発してからちょうど11時間。 やっと奈良田駐車場に辿り着いた!! 遂に2年越しに念願の白峰三山縦走を完了し、また概ね好天に恵まれてしっかりと撮影を行うことが出来た。 以前の断念した経験を経たことで、これまでに無い達成感に包まれていた。 一昨日朝に行列が出来ていたバス乗車場所。 立ち乗りを経て北岳に登ったことも、縦走を終えた今となっては良い経験だったと振り返ることが出来る。 とはいえ、最終日の長大な行程を経て、3日間の縦走の疲れは相当なものだった。 体力的には2週間前の剱・立山縦走のほうがだいぶ楽に感じた。 今回は下山地点の奈良田に車があるので、回収の旅に出る必要が無いことが大きな利点だった。 車で装備を解いた後、すぐさま温泉へ直行した。 長丁場を越えた自分へのご褒美として、格式の高そうな奈良田温泉白根館で汗を流していくことにした。 源泉かけ流しでややぬるっとした泉質。硫黄臭もふんだんにあって本当に温泉らしい温泉。 貧乏性なので料金の元を取ろうと、のぼせる直前まで粘って入浴した。 自分のようなおっさんが美肌になってもしょうがないけど、本当にお肌がツルツルになった。 奈良田温泉白根館は日帰り入浴も可能な山峡の静かな宿で、この後ここで宿泊して山行の疲れを癒せればなあと思わずにはいられなかった。 |
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山あいの静かな奈良田を後にする | |
2年前と違って、今回は大いなる達成感と満足感をもって奈良田を後にすることが出来た。 またいずれ、南アルプスでの山行で再訪することもあるだろう。 奈良田に名残を惜しみつつ、約7時間掛かりの帰途へ就いた。 〜 終わりに 〜 白峰三山縦走は南アルプスでも随一の人気ルート。 今回2年越しに初めて縦走出来て、2年前のリトライを果たすと共に、南アルプスの自然の一端に触れることが出来ました。 緑濃い南アルプスの山々を眺めていると、北アルプスとまた違った魅力を持っていると感じさせられました。 これまで重点的に歩いてきた北アルプス同様、南アルプスも時間を掛けて片っ端から歩いていきたく思います。 白峰三山縦走後、なかなか山行記録を纏める時間を確保できず、完結まで1ヶ月超も掛かってしまいました。 やや薄れつつある記憶を写真や地形図などで掘り起こしていく作業は、山行の余韻を改めて噛みしめると共に 南アルプスへの理解を多少なりとも深めることにつながりました。 今夏をもってまた一つ、大切な思い出となる山行が増えたようです。 今回も3日間の山行記録にお付き合いいただきまして、ありがとうございました! |
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行程断面図です![]() |