「剱岳・試練と憧れの早月尾根」 2016年 7月22日(金) |
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国土地理院地形図 : 25000分の1 「剱岳」 〜 はじめに 〜 昨年に裏銀座や奥黒部辺りを歩いた頃から、次の目標は自然に剱岳になりました。 そして事前に小説「剱岳・点の記」も読んで(たいへん素晴らしい内容でした!)、満を持して剱岳に登る準備を整えました。 しかし梅雨がなかなか明けきらず、出発直前まで決行可否の判断がずれ込んだ山行となりました。 3日間とも午前を中心に穏やかに晴れるという見通しが当たることを祈って出発しました。 初めての北陸道をひたすら北上。立山ICから一般道を馬場島へ向けて山道へ入っていきます。 馬場島荘の駐車場には3:30頃到着。今回も仮眠を取る間もなく、少しだけ休憩してから出発準備に掛かります。 |
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行程概要 | |
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室堂を起点に別山尾根を往復するのが剱岳での定番の行程ですが、自分は早月尾根から登りたい気持ちが強かったです。 また、苦労して金曜の休みを確保した遠征の機会なので、元々好きではないピストンの行程は極力避けたいところ。 剱岳登頂を果たした後、下りで別山尾根を通って劔沢、そして室堂を目指すという縦走の行程を組みました。 下山後の交通費は掛かりますが、絶好の機会を十二分に活かすことを優先しました。 4:15頃 馬場島荘駐車場(740m)出発 若干薄明るくなりかけた頃、緩やかな登りの舗装路を歩いて登山口へ向かう。 |
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馬場島、早月尾根取付付近 | |
路肩に早月尾根を示す石碑があって、薄暗い中でもスムーズに登山口へ辿り着く。 登山口の手前は芝生の広場になっていて、キャンプ場としてもとても良さそうなところだ。 |
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「試練と憧れ」の石碑。遂にここにやって来たと、大いに気持ちが昂る。 | 今日は早月小屋までの標高差1,440mを稼ぎにかかる。 |
試練と憧れ、試練と憧れと心の中でつぶやきながら、石碑横にある登山口へ。 自分にとっては長大で標高差の大きい道のりの大変さより、早月尾根に登る試練というか機会を今に得られたことを幸運に思った。 4:30 早月尾根を登り始める 尾根の末端は標高差100m弱。地形図を見るとけっこう等高線が混んでいる。 一歩目からいきなり試練が始まるといった感じだった。 空は白み始めていたが、樹林帯はまだ薄暗かった。しばらくはヘッドライトを付けたまま登る。 |
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登り始めからいきなり急坂が続く早月尾根。しかし「試練と憧れ」の山旅はまだ序盤の序盤だ。 人手不足による連日の激務疲れ、片道450kmの運転疲れ、そして寝不足の状態。 歩き始めは普段より更にゆっくり足を運ぶことを意識した。 激登りではあったが、登山道はよく整備されていて歩きやすい。 登り始めて間もない頃、後から登って来た軽装の男性登山者2人に道を譲った。 今日は序盤を中心に10人程度の方に道を譲った。ザックの大きさからして日帰り装備の方が殆どだったと思う。 地元の方を中心に早月尾根を経て剱岳まで日帰りでピストンされる方が多いという。 軽装ではあっても標高差2,200mのピストンであるから、楽な道のりではないだろうなと思う。 |
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4:50 早月尾根を彩る巨大な立山杉が現れ始める 最初の急登は松尾平に近づくにつれて落ち着いてくる。 この頃から登山道脇には目を見張るばかりの立山杉の巨木が見られるようになる。 少し前に戸倉峠の南側の県境尾根で見た宍粟杉と雰囲気が似ているように見えるが、名前が違うだけで木の種類は同じなのだろうか。 いずれにしても立山杉の巨木群は早月尾根の見どころの一つとしても良いと思う。 ゆっくりめにウォーミングアップがてら登ったからか、あまり息も上がらずに寝不足の影響をも感じなかった。 今回は出発直前まで諦め傾向だっただけに食材にこだわることが出来ず、本当に可能な限りの軽量化が出来ていたおかげもあるかもしれない。 肉類など凝った食材が入っていない分やや軽く感じるが、それでも出発前に軽量してみたら23kg近くはあった。 |
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5:19 松尾平(1,010m+) | 松尾平のベンチからしばらくは殆ど平坦な登山道が続くが、行く手には早月尾根の続きが近づいてくる。 |
馬場島から登り始めて50分で松尾平に到着。 東から北にかけて展望が得られるが、標高の高いところは雲が掛かっていて劔も見えない。 予報では午前は晴れるということだったので、いずれは上部の稜線が見えてくるのを期待したい。 ベンチはじんわりと濡れているが、自分もこの時点で既に汗だくなので構わず座る。 ここで5分程度小休止をとった。 ここで標高1,000m。早月小屋まであと標高差1,200m。六甲最高峰+300m弱と考えれば、昼前には確実に小屋に着きそうだ。 松尾平からはしばらくの間、平らな森を歩く。 最近は雨が少なかったのか、水はけの悪いところも比較的乾いていて歩きやすい。 切り株が飛び石代わりになっているが、普通に地面を歩いても支障はなかった。 |
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まだまだ続く巨木群を楽しんでいると本格的な急登が再開する 松尾平から続く平坦地が徐々に狭まり、尾根の形状が明確になってくると次第に傾斜が出てくる。 この辺りが最も巨木の密度が濃かった印象がある。まだまだ深い樹林帯が続くだろうけど、ここは退屈しない尾根歩きだった。 |
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5:49 周囲を圧倒する巨木に出会う 急登が本格的に始まった頃、登山道を塞ぐかのような巨木を潜っていく。 思わず歓声を上げずにはいられない光景だった! 少しかがんでいかないと、頭上に低く張り出した太い枝がザックに当たりそうだった。 |
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北アルプス三大急登にも挙げられる早月尾根の試練が本格化する 1,050m付近から始まる急登は、多少の緩急はあっても基本的に早月小屋、そして剱岳まで続くと考えて差し支えない。 先を焦らずに一歩一歩、丁寧に足を運んでいくことを意識した。 自分にとって早月尾根は最後に残った北アルプス三大急登であり、通り過ぎるのがもったいないと思えるほど良い尾根道だと感じていた。 樹林帯に覆われた尾根が続くが、時折周囲の景観も見えるようになってきて気を紛らわせてくれる。 深い山あいには晴れ間も差し始めていたので、天候のほうもまず問題はなさそうだ。 |
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6:17 標高1,200m地点 早月尾根でも標高差200m毎に指導標が設置されているので、急登が延々と続く中でペース配分と現在地確認に役立つ。 自然に標高差200m登る毎に休憩を入れることになった。ここで7分程度ザックを下ろして小休止を入れていく。 早月小屋まであと1,000mの登り。 |
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白いアジサイ?も咲いていた | ごく一部だろうけど上方には尾根の続きが見える |
松尾平を過ぎると長大な本格的な登りとなるが、1,250mを過ぎるころから若干等高線が広がっている。 急登とはいっても幾分緩いところもあることを地形図で確認すると、そのことだけでもだいぶ気が楽になった。 |
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7:04 標高1,400m地点 馬場島からここまでで既に600mほど登ってきて、既に今日の行程も中盤に入ってきた。 自分にしては予想以上になかなか良いペースだった。 ここでも5分程度小休止を入れておく。 |
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7:24 馬場島を見下ろす 1,400m地点からしばらく登った頃、馬場島周辺を広く見渡すことが出来た。 望遠レンズを使えば馬場島荘前の自分の車が見えそうだった。 富山平野側には広く雲が掛かっていて、この日は標高の高い山の方が好天だったようだ。 この写真を撮ってまもなく、下り中の女性登山者2人とすれ違う。 この日、行動中に出会った登山者は登り10人、下り3人だったかと思う。 早月尾根では自分が望んだとおり、本当に静かな山行が楽しめた。 先週のてるみさん、Tokiwaさん、そして母との4人パーティーでの摩耶山山行も本当に楽しかったけど、この日は全く対照的な静かな単独行だった。 |
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7:29 標高1,600m地点 日当たりの良い池の谷側に出てきたところが標高1,600m地点。 ちょっと暑いけどここで6分程度小休止をとった。 この辺りではけっこう尾根が痩せていて、南北双方とも視界が広がっていた。 但し南の立山方面のほうが雲が多かった。 ここで早月小屋までの標高差は残り600m。これは昼前には着きそうなペースなので、後で心ゆくまでのんびり出来そうだ。 |
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1,600m地点を過ぎてから雲の中へ入る しばらくは周囲に大きな木が無くて、比較的痩せた尾根の直上を歩く。 条件さえ良ければ周囲の景観が広がりそうなところだったが、この辺りで一旦雲の中へ入った。 しかし今日は2,200mまで標高を上げるので、いずれは雲の上へ突き抜けることを期待して登っていく。 |
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8:18 標高1,800m地点 再び森が深くなって東大谷側を歩くようになると、標高1,800m地点に到着。 早月小屋まであと標高差400m。想像以上に早い。ここで6分程度小休止をとった。 地形図を見ると1,870mくらいまで登ると、傾斜が一旦落ち着いてその後三角点「気和平」へ至るようだった。 「剱岳・点の記」でもここは数度にわたって登場する場所だから、楽しみにしていたところだった。 |
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接近してきた三角点へ向けて | 8:51 一瞬、三角点かと思ったが・・ |
まだ雲は晴れないものの、時々は薄日も射すようになってきていた。 そして急登が一段落してミニピークに差し掛かった時に石標が前方に見えた! 一瞬三角点かと思ったが、四方の角が丸いのですぐに違うことに気付いた。 三角点の標高は1,920mだからこれよりもう少し先にあるではないかと思い、この先は登山道沿いも含めて注意深く観察して歩くことにした。 |
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登山道は池の谷側を巻き始める | 9:15 小さな広場にて小休止 |
今まで多くの区間を尾根の直上を歩いてきたが、ここにきて山腹を通るようになってきた。 こうなると標高を上げていく感覚が鈍くなる。そして三角点の所在が得られないまま小さな広場に行き当たった。 ここも含めて沿道の怪しげな踏み跡はいくつか確認したが、結局今回は三角点「気和平」は見つけられなかった。 帰宅後、ネットで調べてみると、やはり登山道から少し離れた藪の中に隠れているようで、 多くの方々が見つけられずにいる難易度の高い?三角点とのこと。 柴崎測量官の時代から100年経っていて、訪れる人が少なければ藪に埋もれていても不思議ではない。 いずれ早月尾根を再訪する大きな目的が出来たと前向きに捉えよう。 話を山行に戻すと、山腹での小刻みなアップダウンでやや疲れを覚えたので、 標高2,000m地点より手前だが広場で小休止をとっていくことにした。 誰も通り掛からず静かな広場で、必要と感じて時折鈴を鳴らしたほどだった。 |
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9:30 標高2,000m地点 広場からもまだ山腹道が続くが、まもなく標高2,000m地点に差し掛かった。 でも先ほど休んだばかりなのでここはそのまま通過した。 早月小屋まで残る標高差は200m。雲から抜けるかどうか。 |
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雲が切れそう! | 9:51 小さな池塘を通過 |
2,000m地点からしばらく登ってきた頃、雲間から青空が見え始めた! もしかしたら前方に見えるのが早月小屋の手前のミニピークかなと想像していた。 そして小さな池塘を通過。 あまりきれいな水には見えなかったが、周囲の雰囲気の変化が楽しかった。 池塘を過ぎるとやや急な登りとなった。 ここで今日の行動中に出会う最後の方となった、下り中の軽装の単独男性とすれ違う。 |
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早月小屋手前の最後の急登 | 完全に雲を抜けた! |
2,000m地点まで比較的順調に登ってきたが、この最後の急登はなかなかの運動量と感じた。 日差しを浴びる時間が長くなって、俄かに暑くなってきた影響もあったかもしれない。 大きくて段差の大きい大岩、そして立派な木の根を越える場面がしばらく続いた。 そして周囲の木々が低くなって一気に明るくなった。 遂に2,224mピーク「丸山」に乗り上げた! |
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10:34 2,224mピーク「丸山」到着 | |
登り詰めた2,224mピークでは感動的な光景が広がっていた! 間近に早月小屋。そして遥か高くに剱の山頂。いやが上にも明日の行程への期待は高まるばかりだった。 そして北隣には小窓尾根の奇観。マッチ箱といわれる台形の地形が中ほどに見える。 南側はすぐそばまで大きな雲が上がってきており、立山方面は全く見えなかったが、 早月尾根を6時間近く掛けて登ってきたことは充分に報われた思いだった! 自分が2,224mピークに居る間にも、周囲からはどんどん雲が上がってきていた。 この調子だと昼からは間違いなく雲の中に入ってしまうだろう。 もう先を急ぐ必要はないので、早月小屋直前のこのミニピークで10分近く眺めを楽しんでいた。 一しきり眺めを楽しんでから早月小屋へとゆっくり下っていく。 テントはまだ一張りだけしか見られず、どこでも張り放題の状態だった。 |
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10:49 早月小屋(2,210m+)到着! 外で作業中だった小屋の方々とご挨拶を交わして早月小屋に到着! まずはさっそく受付だけを済ませてから、テントの設営に掛かる。 ここは小屋から近いし、滞在には便利そうなテン場だ。 |
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早月小屋・キャンプ指定地 | 明日剱岳へ向かう、早月尾根の続きを確認 |
ここのテン場は広すぎず狭すぎずそこそこの広さ。 水平のところが多いし、テントを固定する岩も揃っているので、設営作業も快適だった。 設営中にもどんどん雲が上がってきて、先ほどまで心ゆくまで見えた劔も雲隠れ。 結果的には雲に巻かれる前のギリギリのタイミングで登ってきたことになる。 但しテントを張った後は、曇りの方が涼しいのでテントで過ごしやすくはなる。 早月尾根の急登のご褒美として、小屋でコーラを仕入れた。ただただ美味しかった。 いつもおやつやコーラを片手に、山と高原地図と地形図を見て翌日の行程を確認するのが楽しい。 夕方までには数張り増えたが、まだまだ空き地のある状況だった。 今回は金曜だったから余裕があったが、連休や土曜ならどのような感じだろうか。 午後に完全に雲に巻かれた時間帯があって、涼しくなったテントで昼寝も出来た。 今日の山行に加えて日頃からの心身の疲れも共に、だいぶ癒されたように感じる良い時間だった。 |
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2,224mピークより流れる雲海を眺める 夕刻近くなって雲が切れるのではないかとみて、2,224mピークまで散策に出た。 残念ながら雲は絶えず流れてきて切れることはなく、周囲の山々は全く見えなかったが見応えのある雲海だった。 明日は早月尾根を登り詰め遂に劔の山頂へ達すると共に、別山尾根を劔沢まで下る。 今回の3日間の行程で核心部といえる大事な1日となる。 天気傾向は今日とほぼ同様で午前は晴れるというが、万一、予報が外れて雨でも降られれば早月尾根を引き返すことも考慮していた。 早月小屋から1時間少々で岩尾根となるということで、その頃に日の出を迎えるように出発時刻を3時とした。 ということで起床時刻は1時となる。 18:30頃、明日の好天を祈って就寝。 まだテントの外は明るいので、耳栓と共にアイマスクが役に立った。 |
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行程断面図です![]() |