「裏銀座縦走2日目・野口五郎、鷲羽岳を経て三俣山荘へ」 2015年 8月 9日(日)

国土地理院地形図
 : 25000分の1 「烏帽子岳」、「三俣蓮華岳」


山と高原地図 「鹿島槍・五竜岳 北アルプス」、「槍ヶ岳・穂高岳 上高地 北アルプス」




 0:45 起床




 2:35 烏帽子小屋・キャンプ指定地を出発

 今日の行程は三俣山荘までの長大な稜線歩き。
序盤の野口五郎岳まで標準所要時間は3時間30分。その後三俣山荘までは5時間20分。
合計で8時間50分。休憩や撮影時間を含めると、もっと長い所要時間のはずだ。




 テン場を貫くように南へ続く縦走路を辿っていく。
周囲のテントのいくつかは既にランタンの灯りが付いている。

 真っ暗な縦走路をヘッドライトの灯りを頼りに進んでいく。
すぐにコル状のようなところを通過。その後は稜線を付かず離れずに一貫して登り。
昨日は疲れ切っていたが、数時間でも寝ると体力と脚力はある程度は回復してそれなりのペースで登れてしまう。
でもやはり通常より脚はやや重い。

 時折、振り返る度に烏帽子小屋やテン場の灯りが遠くなっていく。

 三ツ岳への登りは殆ど穏やかな砂礫の稜線が続く。
危険な箇所も少なく、暗い時間帯でも順調に登っていけた。

 黙々と登っていると、こんな時間に下り中の3、4人のパーティーとすれ違って驚いた!
昨夕、三ツ岳山頂でテントを張っていると、遭対協の方が双眼鏡で観ていたがその方々だろうか。

 稜線は大きく西にカーブすると、暗闇の向こうにピークらしき輪郭がぼんやりと見える。
この頃、烏帽子のほうを見下ろすと、稜線上をいくつかの灯りが動いていることに気付く。
元々自分は遅いペースだが、昨日の疲れもあって抑えめに歩いている。
この後、おそらく野口五郎に辿り着く前に追いつかれるだろうか。










 裏銀座縦走路は北アルプスの主要な登山道なので明瞭なルートが続きます。
分岐ではもちろん道標完備。でも地形図でしっかりと読図しながら歩くのがお薦めです。
 アップダウンの一つ一つが大きく、標高差を把握して掛からないと余計に疲れます。

 気を付けなければならないのはやはり天候の変化でしょう。
自分は今回の山行では経験せずに済みましたが、悪天では非常に厳しい稜線とのことです。
特にテント泊の場合は烏帽子小屋〜三俣山荘間の距離が長いので、早発・早着が重要かと思われます。
 
 3:54 三ツ岳北峰(2,790m+)?

 乗り上げたのは三ツ岳北峰と思われるミニピークだった。
ヤマケイ・アルペンガイド「槍・穂高連峰」には、最初に辿り着くピークに三角点があるという記述がある。
このことが頭に入っていたので、自分も現地では思わずタッチしたが地形図をよく見れば違っていた。

 本当に三角点があるのは、この後西側山腹を巻いてしまう三ツ岳本峰。
まあ三ツ岳の3つのピークの一つを踏んだのは間違いではないので、
とりあえず最初の大きな登りを乗り越えたことを喜ぶべきだろう。

 数分の小休止で行動食を摂ってエネルギー補給。
北峰からまもなくすると、西側山腹を横切る局面に。左上方のピークが三ツ岳本峰だろうと思われる。
本峰をトラバースしている頃には徐々に薄明るくなってきて、周囲の状況がよく見えてくる。
もしこの山腹道から滑落してしまうと、どこまでも落ちてしまう高度感溢れるところだった。








 
 4:22 三ツ岳、お花畑・展望コース分岐

 三ツ岳本峰と西峰の間の広々とした2,790m+コルにやってくる。
ここで西峰を通過する稜線コース、もしくは東山腹をトラバースするお花畑コースが分岐する。
元々長大な行程なので、今回は迷わずお花畑コースを選択する。

 なお、地形図の破線道は現状に即しており、縦走の読図で大いに手助けになった。

 前述の北峰の時と同じく写真では周囲は真っ暗だが、これはヘッドライトの灯りに露出が合っているため。
実際はもう周囲の状況はよく見えているほど明るくなっていた。




 お花畑コースは展望コースよりは楽だったかもしれないが、小刻みに地味なアップダウンが連続する。
目立った時間短縮は期待したほどではないような気がする。




 お花畑コースを歩いているとテント一張りが設営されていた。
昨日からずっと好天続きで、ビバークするような事態になることは考えにくいが・・。








夜明け間近の裏銀座の稜線

 お花畑コースはいつしか稜線上に復帰し、一旦分かれた展望コースとも合流。
この辺りでもう十分明るくなったので、今日初めて三脚の出番となった。
昨日の烏帽子岳ピストンの最中にも再び脚の一本が外れてしまったので、昨日のうちにテントに戻ってから新しいビニールテープも使って補強しておいた。
2日目もとりあえず支障なく使えそうだ。

 最寄りでは野口五郎岳と思われるピークがだいぶ近くに、その左右には早くも見えてきた槍と水晶岳が並ぶというスケールの大きな光景だ。
この辺りでは微細なピークは巻いたり、また稜線上に復帰したりの繰り返しだったが、まあまあ歩きやすい稜線といえるだろう。








 5:04 三ツ岳、野口五郎岳間にてご来光

 けっこう赤く焼けたご来光となった。
振り返ると高瀬ダムの方角から朝日が昇ってくる。そして大町付近には見事な雲海が広がっている。

 この時の感覚ではもうだいぶ野口五郎岳に近づいているような気がしていたが、それは野口五郎の山体の大きさからくる錯覚だった。
事実まだ到着まで1時間以上を要する行程を残していた。








西隣にはその名のとおり朝焼けの赤牛岳

 徐々に見える角度の変わる赤牛岳を眺めて、烏帽子から歩いてきた距離の長さを実感することが出来る。




 野口五郎岳にだいぶ近づいた頃、烏帽子に向かう単独男性と初めてすれ違う。
時間的に野口五郎小屋から出発されたのだろうと感じて、目指す野口五郎岳も近いと考えた。








 5:55 2,890m+ピーク

 ケルンや登山者が見えていて、あそこが野口五郎岳山頂かと思わせられていた2,890m+ピークに乗り上げる。
しばらく読図を怠っていてニセピークだと気付かなかった。やはり見た目で判断してはいけない。

 遅ればせながら改めて地形図を見ると、南側に見える広い平らところが野口五郎岳山頂であることが分かった。
まだある程度距離があるがもう大きな標高差もないし近いといえば近い。








 6:00 野口五郎小屋(2,860m+)

 山頂手前の船窪地形を降りていくと、石がいっぱい乗った青屋根が印象的な野口五郎小屋に到着!
出来れば野口五郎のバッジなどを購入したかったが、朝は山小屋にとって忙しい時間帯だろうと思ってまたの機会に。

 なお野口五郎小屋は以前はテン場があったようだが、元来風が強いところということで現在は幕営禁止になっているという。
安全のためなら仕方がないが、裏銀座はテン場の間隔が長いことを念頭に行程を組み立てる必要がある。




 野口五郎小屋からは山頂に向けて5,60mほどの登りとなる。
順調に到着出来るかと思ったら、どこでも歩けてしまう広い山頂部が災いしてルートを外す羽目に。
マーキングをよく見て正しいルートに沿うと、最も楽に辿り着けるようになっていることに後で気付いた。
これは視界不良の際は要注意の山頂ではないかと思われた。

 この頃より烏帽子発の後続の方々に混じって共に歩くようになってくる。








 6:24 野口五郎岳山頂(2,924m)到着

 南北に長い台地状の山頂の南端付近に三角点がある。
野口五郎小屋から20分弱掛かってようやく野口五郎岳山頂に到着!
烏帽子小屋から約4時間。標準所要で3時間30分だから、遅い自分にしてはまあまあ順調でみていいのだろうか。
しかし、これでも今日の行程の3分の1が終わったに過ぎず、まだまだ先のほうが長い。
でも周囲は360度の大展望!あまりゆっくり出来ないのは残念だが、可能な限り時間をとって野口五郎を満喫していきたい。

 なお芸能人の野口五郎はこの山より名を付けたというのは、裏銀座の下調べを始めた時に知った。
山名の由来は大町の近くの野口というところから、ゴーロゴーロとした大きな岩の山が見えるところからだという。
このことからすると、東六甲のごろごろ岳も標高ではなくて、大きな岩が由来と考えるのが自然なのかなという気がする。








これまで歩いてきた3分の1の行程を振り返る  西に並走する水晶、赤牛の稜線に惹かれる。更に背後には薬師も顔を出している。 

 この日はかなり空気が澄んでおり、白馬方面まではっきり見通すことが出来た。

 先ほど通り過ぎた野口五郎小屋はかなり風から守られそうなところに建っているように見えるけど、
稜線にある限り一たび荒天になれば恐ろしいほどの暴風になるのだろう。
「黒部の山賊」を読むとある程度追体験出来るけど、この裏銀座の稜線は天候次第で非常に危険な状態になりうる。




 東沢谷を挟んで西側には水晶、赤牛の優美な稜線が並走する。
水晶岳は今日の行程に加えてピストンで訪れることも不可能ではないが、いつの日か読売新道を歩く時までとっておきたい。








同じく槍へ向かう表銀座の稜線を見通す

 南側には槍と表銀座縦走で歩いた稜線が横たわる。
あちらから裏銀座方面を憧憬の思いで眺めたことを昨日のことのように思い出す。
そういえばまだ大天井岳山頂だけは踏んでいないので、またそのうちに再訪しなければならないだろう。

 それにしても明日到達する槍はまだ遥かな道のりであることを強く実感出来る距離感だ。




 野口五郎からの大展望を満喫しているうちに、同じタイミングで到着された方々は続々と南へ向けて出発される。
自分がほぼしんがりのような恰好になるが、立ち去り難い思いを抱きながら出発することにする。
何しろ今日の行程の終点である三俣山荘までは最低でもあと5時間20分は掛かる。
自分の場合はどうやってもお昼を過ぎる頃になるだろう。








 6:40 野口五郎岳山頂出発  カール地形の下方には五郎池。後方は水晶岳。

 野口五郎岳山頂まで来ると、行程後半までのほぼ全区間が見通せる新たな絶景が広がる!
便宜上他の方角の写真を先に載せたが、自分が野口五郎岳山頂で最も感動したのはこの裏銀座の稜線が延々と続いていく光景だ。
昼頃に到着見込みの鷲羽岳は、まだまだ遥か彼方に。次の山小屋である水晶小屋まででもかなりの距離がある。
それにしても、双六の横に笠がちょこんと突き出ている様は面白い。

 野口五郎からは緩やかに続く楽な下りで始まる。2,870m+、そして真砂岳とも巻道で通過するようだ。
裏銀座の登山道もこの辺りは歩きやすい状態がまだ続く。








地形図にも山名表記のある真砂岳ではあるが、北西側山腹を巻いていく。

 水晶岳や五郎池の眺めが素晴らしいが、高度感ある巻道の通過は足の置場に気を遣う。




 真砂岳を過ぎた頃、足場の悪い急な下りとなる。
浮石に乗らないことや落石を生じさせないよう集中して下っていく。








 7:20 2,770m+にて、真砂岳を振り返る

 真砂岳を過ぎて、一つアップダウンを経た時にふと思い当った。そういえば竹村新道の分岐がこの辺りにあるはず・・。
振り返ると真砂岳からの下りの途中で竹村新道が分岐しているのが目に入る。
安全に下ることに集中し過ぎて、竹村新道の分岐に気付かなかった。

 竹村新道は裏銀座の稜線から分岐する数少ないエスケープルートの一つ。
道中にある湯俣温泉自体も目的地になり得るところなので、避難路としてではなくいつの日か行程に組み込んで歩いてみたい。
但し、この分岐から湯俣温泉経由で高瀬ダムまで8時間は掛かるようだ。








真砂岳を過ぎると、岩が積み重なった稜線が続くようになる

 烏帽子小屋から始まる今日の行程では、歩きやすい砂礫の稜線が長く続いてきた。
ところがここにきてやたらと岩がごろごろとして歩きにくい状態になる。

 まだこの辺りは比較的歩きよいところで、この後2,833mピークを南に巻く辺りでは折り重なった巨岩の上を飛び石のように伝っていくように変わる。
誰でも同じかもしれないが、自分の一番嫌な場面といっても過言ではない。
三脚を設置すること、立ち位置を決めること、全てにおいて難しい。仮に三脚の脚が外れて巨岩の間にでも落ちてしまえば回収不能にもなりうる。
一応、外れた脚はビニールテープで何重にも補強してはいるが、剥がれ具合を時々確認することは怠れない作業となってしまった。








 7:55 2,833mピーク付近

 白丸のマーキングでルートを見出しながら、どうにか巨岩エリアをひとまず突破。
稜線に再度復帰した辺りでは、多くの登山者が休憩中。
あまり行程が進んでいないように思うけど、野口五郎を出発してから早くも1時間30分近くになろうかというタイミング。
自分も無理せずザックを下ろして小休止していくことにした。

 ここで他の登山者の方から、気になる明日の天気予報を確認する機会があった。
好天は今日までで、明日後半は一時雨も降るという。
西鎌尾根上で雨に降られたくないので、明日は今日以上に早発しなければならないだろう。








予想以上に時間と体力を要する2,833mピーク付近

 最も巨岩が多かった2,833mピークを巻いた辺りよりはマシだが、まだまだ慎重な足運びが要求される場面が続く。
歩きにくい状態がしばらく続くが、その代わりに比較的アップダウンが穏やかなのが救いだろうか。

 まだまだ遠いけど、肉眼では水晶小屋の建物がはっきりと認識出来てくるようになった。








東沢乗越が視界に入ってくる

 今日の行程中盤のハイライト?ともいえる、比較的大きなアップダウンの区間にやってきたようだ。
この後、東沢乗越まで一旦下って、水晶小屋まで登り返していく。
水晶小屋までの標高差は200mにも満たないが、かなり大きな登りに見えてしまうのは疲れているのだろうか。

 しかし、野口五郎岳から見ていた時と比べて、鷲羽岳がかなり大きく見えてきたことには元気付けられる。

 この辺りより烏帽子方面へ向かう方々とすれ違う回数が増えてきた。
裏銀座は槍に向かって歩く登山者が多いと思っていたが、実は多種多様な行程で歩かれていることが分かった。








 8:41 東沢乗越(2,734m)

 小広くなっている東沢乗越に降り立つ。
東沢乗越にはお地蔵さんも安置されていて、アルプスの稜線上では珍しい峠らしい峠になっている。

 ここからは水晶小屋へ向けて、しばらく登りが続く辛い局面となる。
烏帽子小屋のテン場を出発してから既に6時間を過ぎて、脚の疲労ははっきりと感じ取れている。
時折、股関節や足首を伸ばしたりして、何とか疲労を軽減させようと試みている。








お地蔵さんが見守る東沢乗越

 この東沢乗越周辺は北アルプスでも最も常に風の強いところと聞いていたが、自分が通過した時は完全に無風。
風で凍えるどころかたいへん暑かった。でもこの状態はむしろ珍しいと認識するほうが無難だろう。








 9:09 2,810m+

 休み休み登り返して、岩のテラスになっている2,810m+に到着。
眼下には黒部湖へ続く東沢と、東側にはこれまで歩いてきた裏銀座の長大な稜線を見通せるようになってくる。
ここまででも充分に長い道のりと感じる。
久しぶりに見える烏帽子が小さな突起状に、そしてかなり距離が開いてきた野口五郎の山頂がまだ大きく見えている。








赤茶けた荒々しい山肌が大きく迫る水晶小屋(赤岳)直下

 だいぶ近づいてきた水晶小屋。肉眼では小屋前の登山者が動いているのも見えるようになっていた。
そして水晶小屋に近づくにつれて手前の赤茶けた荒々しい山肌が迫力を増してくる。
水晶小屋の直上、水晶岳から伸びる尾根の肩は赤岳と呼ばれるミニピークになっているようだが、
この景観を見ると的を得た山名だと納得する。

 この後後ろ向きになる必要のあるほどの急な岩場を下っていく。
目指す水晶小屋はなかなかに遠い道のりだ。








馬の背状の痩せ尾根を通過

 幾度かのアップダウンを経て、ようやく頭上に水晶小屋が至近距離に見えてきた!
南側が崖になっている馬の背を通過し、再度尾根から北へ外れて滑りやすい急斜面の激登りとなる。
急坂を登りきると傾斜が一気に緩んで、周辺は水晶小屋直下のお花畑。
引き続いて無風で暑さも加わって、ヘトヘトになってやっとの思いで水晶小屋に到着だ!








 9:46 水晶小屋(2,900m+)到着

 水晶小屋は事前予約することが望ましいという山小屋で本当にこじんまりとしている。
そして、やっとの思いで辿り着いた山小屋東側は居心地の良い素晴らしいテラスだった。
東沢乗越からの約1時間にわたる登り返しは長いし暑いしで辛かったが、このテラスからの絶景は感動的なもので疲れが吹き飛ぶ思いだった!








水晶小屋からの裏銀座の稜線

 出発から約7時間かけて歩いた今日の行程前半の稜線を眺める。
感涙ものの感動と達成感を得られる絶景だった!




 一しきり眺めを堪能してから、ザックを下ろしてしっかりと休憩をとっていく。
携行していた飲料水等の残量自体は問題なかったが、この後残る行程を考えて水晶小屋でポカリスエットを買い足しておく。
行程終盤の鷲羽岳周辺のアップダウンは楽ではないだろう。足の攣りや体の不調を予防するために携行する水分には余裕を持たせた。








いずれは歩きたい読売新道の稜線

 まだ登頂していないけど水晶岳の山バッジもついでに購入しておいた。
それにしても読売新道が下り着く黒部湖は遥か彼方・・。

 水晶岳はここから見る限りでは意外に近く、登山者が立っているのも分かる。
但しコースタイムから推察すると、仮にここからピストンした場合は今日の行程に更に2時間は必要となる見込みなので諦めた。

 水晶小屋滞在中も無風で、本当に俗世間から隔絶された天国のようなところだった。
でも過去には2度にわたって、暴風により建築中に倒壊したという苦難の歴史がある山小屋であることを「黒部の山賊」を読んで知っている。
数十年前の水晶小屋が無い時期、今のようなレインウェアが無かった頃、もし天候が崩れたら裏銀座縦走は低体温症の恐れがありたいへん危険だったとのこと。
自分が写真撮影しながら縦走出来ているのも、ひとえにこの好天に支えられてこそ。自然の恩恵には感謝しなくてはならない。




10:15 水晶小屋出発

 30分近くにわたってじっくりと休憩をとった。
今日の最終目的地である三俣山荘までの標準所要時間は2時間50分。
楽しみにしている鷲羽岳も控えていることから、実際に休憩なども入れると4時間近くは掛かるとみるのが無難だ。
水晶小屋も立ち去り難いところだが、いよいよ行程の後半を開始する。








水晶小屋分岐

 休憩をとったテラスから山小屋の南側を回って裏手に出ると、読売新道との分岐になっている。
分岐の横の高台は赤岳(尾根の肩というような地形ではあるが)山頂なのだが、今回は行程を進めるほうを優先する。








分岐から僅かに進むと、初めての光景が広がってまた感動する! 雲ノ平、黒部五郎、北ノ俣。自分にとって全く未踏の山域を眼前に! 

 水晶小屋を過ぎると、これまで全く見えていなかった雲ノ平周辺の絶景がいきなり目に飛び込んでくる!
観るもの全てが自分にとって未踏のところばかりで、出発した直後ではあったが思わず撮影せずにはいられなかった。
黒部五郎、雲ノ平・・。「黒部の山賊」で鮮やかに記述された世界を眼前にしてただただ感動してしまう。
近いうちにこれらをつないでぜひ歩いてみたいという衝動に駆られる。








ワリモ乗越の広い稜線の向こうには、ワリモ、鷲羽岳が並んで見えてくる

 水晶小屋分岐から緩やかに下っていくと、雲ノ平方面を右手にして南向きに歩くようになる。
見える範囲ではワリモ北分岐に至るまでは、比較的歩きやすい稜線といえるだろう。

 今日の行程の最後の難関というべき鷲羽岳も遂に行く手に見えるようになってきた。

 この辺りでは同方向へ歩く方はもちろん、逆向きに歩かれている方々と多くすれ違った。
この辺りはどの登山口から歩いてきても2日は掛かる北アルプス最深部であり、多くの登山者が行き交う中心部であるともいえるかもしれない。








ワリモ乗越付近

 水晶小屋に辿り着くまでの険しいアップダウンとはまるで正反対の穏やかな稜線が続く。
あまりに穏やかで広い稜線なので、ワリモ乗越も地形的には特徴がなくてコルを通過したという実感が得にくい。
 途中からは緩いながらも登りが始まったので、過ぎてからコルを通過したなと感じた。
この辺りからはワリモ岳に向かって、概ね登り基調の登山道がしばらく続くこととなる。

 そんな時でもお花畑があると一服の清涼剤のようなもので、気分的にすごく癒されるというかほっとするものを感じる。

 2,841mピークの北斜面が近づくと緩い登りとなる。








10:58 ワリモ北分岐(2,800m+)

 事実上、今日最後となる重要な分岐に差し掛かった。
分岐の周りでは多くの登山者が休憩中だった。
今のところ水晶小屋を出発してからまだ1時間も経っていないし、この先まだしばらく登りが続く。
ここでは休まずに行程を進ませることにした。

 なお、鷲羽岳を越える稜線が悪天で危険と思われる場合などはこの分岐を直進。
岩苔乗越より黒部源流を通る谷道を使うケースも頭に入れておきたい。








11:11 ワリモ岳を目前に据える

 ワリモ北分岐から2,841mピークを回り込むようにして稜線上へと登り返すと、ワリモ岳の真北に出てくる。
ワリモ岳は地形図にも山名が表記されている。ここからは見えないが、ワリモ岳の南隣にはようやくの接近となる鷲羽岳も控えている。

 ここからだとワリモ岳へはあまり標高差はないように見えるが、一旦下りを挟むので登りは50mほどだろうか。
アップダウンを前にしてここで小休止を入れておく。








11:31 ワリモ岳山頂(2,888m)直下

 ゆっくりと登り返して西側山腹を回り込むと、遂に前方に鷲羽岳が大きく見えてきた!
しかも鷲羽岳の麓、右奥には三俣山荘とテン場も遂に視界に入った!
今日の行程の終点が見えてきたが、ここから見てまだまだ距離があると率直に思った。

 ワリモ岳は「黒部の山賊」でも三俣の小屋から直接見える山ということで、文中にも登山者とのやり取りの件で出てくる。

 ワリモ岳はハイマツと岩に覆われた急斜面を登ることで頂上に立てるようだが、頂上の指道標は何故か少し下ったところに建てられている。
ワリモ岳頂上も立っておきたいが、今日は鷲羽岳到達を優先して先へと進むことにした。

 ワリモ岳頂上南側はやや険しい岩場となっており、マーキングを確認しながら慎重に通過する。








鷲羽岳へ向けて今日最後のアップダウンへ!

 鷲羽岳との間のコルまでは下るほど緩やかになっていく。
そして同時に鷲羽岳がどっしりした山容で大きく迫るようになってくる。
鷲羽岳は三俣側から順光で撮影された写真を多く観るが、北側から観てもまた違う感動的な美しさだった。
でもそれはともかく鷲羽岳への登り返しは、今の疲れた脚では充分に試練となるだろう。








11:49 2,800m+コル

 下りきった2,800m+コルは残雪のある東側の谷から吹き付けてくる風が涼しかった♪
涼と小休止をとってから、いよいよ見上げるほどの鷲羽岳への登り返しを開始する。

 ちょうど通り掛かった10人くらいの団体と抜きつ抜かれつという調子で登っていく。
団体もペースによって2分割状態で、自分は遅いグループと一緒に登る形となった。
稜線よりはやや西側に寄ったジグザグで高度を上げていく。
通常のペースよりはやや早くなったおかげで大きく息が上がり、途中2度ほど立ち休憩も入れながら遂に待望の鷲羽岳山頂へ到達する!








12:15 鷲羽岳山頂(2,924m)到着

 最後の登りをどうにか終え、感動と達成感に浸りつつ鷲羽岳山頂にようやく辿り着いた!
街が全く見えない北アルプス奥地の360度の大展望。ただただ素晴らしいとしか言いようがない。

 鷲羽岳山頂はけっこう広いので、歩き回りながら各方角の絶景を順番に眺めていく。








これまで歩いてきた裏銀座の稜線を振り返る

 6時間ほど前に居た野口五郎岳は遥か遠くに。でもここから見ても広い山頂でよく目立っている。
また2時間と少し前まで居た水晶小屋もかなり遠くに感じる。

 更に現地でも気付かなかったが、写真を原寸で見ると烏帽子岳も小さく写っていることが分かった。
逆に言うと烏帽子岳からも鷲羽岳が見えていたことになる。
 烏帽子岳より少し手前の烏帽子小屋付近は三ツ岳に遮られて見えていない。

 裏銀座の稜線は素晴らしいと改めて思うし、それに加えて本当によく歩いたな〜と自分でも感嘆してしまう。








水晶岳から祖父岳、そして薬師岳  薬師岳。もし歩くならやはり室堂から縦走して立ち寄りたい。 

 水晶小屋付近からは目立っていた雲ノ平は祖父岳の向こうに隠れ気味。
一方、白っぽい薬師岳が遠くからでもよく分かる。
北側には自分にとって未踏の山々が多く残っており、この景観を眺めて当然のことながら近いうちに登る候補の山が増えていく。

 後の行程に目途が立った鷲羽岳山頂では、望遠レンズにも交換して気合を入れて撮影したので併せて掲載したい。
山行中はただの重りでしかない望遠レンズだが、昨日の烏帽子に続いて今日もここ一番という時に使っている。








槍へと続く明日の行程に期待が膨らむ!というかこの距離を明日歩けるのだろうか。 裏銀座ならでは。硫黄尾根と槍・北鎌尾根との対比が面白い。 

 南方に目を転ずると、まず槍に目が行くのは当然だけど、槍へと続く西鎌尾根の長大な道のりに圧倒される。
見える範囲では双六小屋から樅沢岳への登り、そして最後に槍へと突き上げていく大登りが待っている。
楽な行程ではないのは当然分かっていたが、実際の光景を目の当たりにして挑戦する気持ちを新たにする。

 以前、テントを張った双六小屋のコルが小さく見え、あそこから鷲羽岳を初めて眺めた時のことを思い出す。
実際に眺めてみると行きたくなるのは当然の成り行きなんだろうな。

 かつては鷲羽岳も火山だったということで、その名残の鷲羽池と周囲の地形もユニークだ。
山と高原地図では鷲羽池へ下りる破線が描かれている。そのうち機会を見つけてあのクレーター地形の中へ降りていきたい。








頂部が顔を覗く常念岳。後方に沸き立つ雲が夏らしい。 双六、笠の競演。野口五郎辺りから見えていた笠だが、意外に尖って見えることに驚く。

 腰を下ろして鷲羽岳山頂で過ごしていた時は、やはり南側に陣取って眺めを楽しんだ。
明日の3日目の行程を視覚的に確認したかったこともあるが、やはり自分がこれまでに歩いた山が多いことも無視できない理由だろう。

 明日は今日までとは違って、午後は下り坂という気がかりな予報となっている。
出来れば槍に昼頃には到着したいので、また深夜のうちに出発することになるだろう。
自分のペースからして、双六岳の辺りで日の出を迎えられれば良い感じではないかと考えていた。








黒部五郎岳

 笠からもよく見える山で、また山の休日さんのレポを観て以来ずっと気になっている黒部五郎岳。
稜線ルート、カールルート、どちらも歩いてみたい。明日真っ先に登頂する三俣蓮華岳からだと半日の行程で楽しめそうだ。








この後テントを張ることになる三俣蓮華岳キャンプ場。三俣は「黒部の山賊」でも主要な舞台として描かれている。  裏銀座縦走2日目もまもなく完遂。 




12:53 鷲羽岳山頂出発

 本当にいつまでも居たい山頂ではあるが、三俣山荘まで下りでも1時間掛かる。
名残惜しいけど再訪を期して下りに掛かることにする。
昼を過ぎてもガスが掛からず、最後まで展望を楽しませてくれた鷲羽岳に感謝の念を捧げつつ出発する。

 山頂から少しの間だけは緩やかな下りだが、尾根が三俣山荘へ向けて西寄りへ曲がると急坂となる。








足元注意の激下り

 三俣山荘への標高差は400m弱ではあるが、疲れた脚には長く感じる下りだった。
特に途中までの急坂は石車や砂交じりで滑りやすいので、やはり脚力を駆使して足運びは慎重に。
写真では殆ど人が写っていないが、間合いを見計らって撮影している結果であり、撮影機材を撤収している間に後ろから大勢降りてくることに。
登りでは譲るほうが多いのだが、下りでは自分のペースはやはり速いよう。この下りでも2、3度道を譲っていただいて先へ出た。

 途中からは斜度が緩くなって、登山道も落ち着いてくる。
登りの方とすれ違う時など2度ほど立ち休憩をしては、三俣周辺の山々を眺める。
周辺の山々の一つ、といった感じで三俣蓮華岳はこの角度では目立たない感じだが、明日は暗いうちに登ってしまうので今回は景観を楽しむことは出来ない山となる。
 ということでせめて三俣蓮華岳の山姿はしっかりと観ておきたい。








13:42 2,536mコル

 ようやく鷲羽岳を下り切ると、稜線から東側へ外れる形で2,536mコルを通過。
コルからは三俣蓮華岳の頂部だけが覗いている。明日もいきなりあそこへの登りから始まるので気合を入れなければならない。

 それはともかく長丁場だった2日目だが、遂に前方に三俣山荘が至近距離で迫ってくる!
ハイマツの緑豊かな森に覆われて、屋根だけが見えている様が印象的だった。








13:52 三俣山荘(2,540m+)到着

 遂に待望の三俣山荘に到着!!
烏帽子のテン場を出発してから11時間30分余り・・。長い長い。それでも好天に恵まれて最高の道のりだった。
行程どおりに裏銀座2日目を踏破出来て半端ない達成感と感動だったが、余韻に浸る前にまずはテント泊の受付と設営を済ませなければならない。

 「黒部の山賊」を読んで以来、憧れとなっていた三俣山荘だが、この時は団体も含めて多くの登山者が続々と到着する最中で大賑わい。
とても山小屋の方と世間話をする余裕も無く、受付だけ済ませてテン場へと向かう。

 三俣山荘のテン場(三俣蓮華岳キャンプ場)は、三俣山荘より徒歩3〜5分くらい。
ハイマツの森を潜り抜けた先にテント設営適地が点在する。
自分の場合は、山小屋から離れても静かな環境を優先するのを場所選定の基本としている。
まあ選択の余地が乏しい場合も多いが・・。







鷲羽岳を一望出来るところにテント設営 今日の縦走のご褒美にはサイダー。鷲羽の優美な姿を眺めながらゆったり過ごした。水は水場で豊富に得られる。

 三俣山荘からやや離れたところでテントを張った。
選んだところは降りてきたばかりの鷲羽岳を心ゆくまで眺められる絶景の地だった。
最後の激下りは長くて疲れたが、鷲羽岳は本当にその名のとおりの美しい山で観ていて飽きない。




 少し落ち着いてから三俣山荘へ向かって、トイレや買い物などの用事を済ませる。
鷲羽岳、三俣蓮華岳の山バッジやサイダーなどの飲み物を購入した。
山小屋の受付は登山者が入れ代わり立ち代わりで大変な混雑ぶりだった。




 三俣蓮華岳キャンプ場はテン場の中に水場があって、ここでは無料で冷たくておいしい水を補給出来る。
水が豊富で無料ということがこんなに有難く感じるなんて、アルプスに登るようになる前には考えもしなかったことだ。
雪渓横には小川も流れているが水が氷のように冷たく、サイダーもこの小川で充分に冷やしてから飲んだ。
このテン場はいろんな意味で本当に最高に贅沢な時間を過ごすことが出来る!

 夕方遅くにはさすがに雲が湧いてきて、一時的には小雨まで降ってきたが大崩れすることはなかった。
テントの中で休憩している時では、雨の音も小気味良く聞こえるのが不思議だ。








夕日が射す鷲羽岳と三俣山荘。

 鷲羽岳の麓で過ごす夕方の時間は、行動中と同等に貴重な一時だった。
「黒部の山賊」で描かれる数々のエピソードを思い出しながら、夕陽に照らされる鷲羽岳と三俣山荘を眺める。
長いような、あっという間だったような、稀に見る充実して中身の濃い1日だった。

 まだ日が沈んでおらず明るい時間帯ではあるが、18時30分頃には床に就いた。
遂に槍へ到達する明日3日目も長丁場なので2時30分出発予定。起床は0時45分とした。








 「裏銀座縦走3日目・三俣蓮華、双六岳、西鎌尾根を経て槍ヶ岳へ」と続きます。


行程断面図です




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